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キャリア迷子「生き方提案」
小林 さとる
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副業・キャリア
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キャリア迷子が増えている

キャリアはもっと「自由」でいい

現在、日本型雇用慣行の崩壊が進んでいること、また、以前より転職が当たり前の時代となり雇用の流動化が進んだことで、働き方やキャリアが多様化してきています。働き方改革の推進やテクノロジーの発展、人の価値観やバックグラウンドの多様化によって、個人の事情に合わせて在宅勤務や時短勤務、副業など、働き方が選べる制度を導入している会社も増えています。

選択肢が多いということは、自由度が高まるということで、従来の企業のやり方に捉われず、個人の事情や価値観に合わせた自由なキャリアを描けるということです。キャリア迷子の方には、自身のキャリアについてもっと自由に、柔軟に考えていただけたらと思います。

キャリア迷子という言葉に、ネガティブな印象を持たれた方もいるかもしれませんが、自分の働き方を見直し、より幸せな道へ踏み出すための準備期間として、実は重要な期間であると捉えていただきたいです。

人生の転機は、なにかが終わるときに始まる

トランジションとは、「人生の節目」「転機」といった意味です。人生には、失恋、結婚、転職、離別、事故など、さまざまな転機(トランジション)があります。アメリカの心理学者であり、組織コンサルタントのウィリアム・ブリッジズは、人がこうした人生の転機に遭遇したとき、それを乗り越えていくためのプロセスを、次の3段階で示しました。

(1)終焉:なにかが終わる時期。自分で望んだ場合も、外部の力により終わらされる場合も含む。混乱や喪失感をともなう。

(2)ニュートラルゾーン(中立圏):立ち止まって過去といまの自分を見つめ直し、気持ちを整理する時期。

(3)開始:新しいなにかが始まる時期。不安や恐怖を感じながらも、それを乗り越えていく。

ブリッジズはニュートラルゾーンの期間においては、急いで抜け出そうとして行動を起こすのではなく、「終わり」をしっかり認識して受け止め、時間をかけて自分自身と向き合うことで、新しい「始まり」を迎えることができると説明しています。つまりトランジションとは、古い自分に終わりを告げ、新たなスタートを切るための大事な移行期間、過渡期とも言えるのです。

生きていれば、誰もが必ず何らかのトランジションにぶつかります。真剣に思い悩むからこそ、新しいことの始まりでは、それを超えた、より自分らしい幸せに近づく道が拓けます。「ニュートラルゾーン=迷子」の状態を、人生を良い方向に進めていくための一つのチャンスだと前向きに捉えていただければと思います。

そもそもキャリアってなんだろう

ワークキャリア=狭義のキャリア

キャリアという言葉は、どこか成功や上昇志向、競争といったイメージと結びつく形で使われてきた経緯があります。しかし言葉自体には、もともと出世とか上昇志向といった意味はありません。もともとは道やコースといった意味を表す言葉だったわけですが、そこから人生の道筋や、その道を歩んできたなかでの経験などを表すように転じてきたのです。すごく単純化して要約するなら、「キャリア=一生涯の経歴」がもともとの意味だったのです。

日本において、キャリアという言葉だけでは、履歴書や職務経歴書に描かれるような「職歴」「業務歴」「業務上の実績」に絞って捉えられることがまだまだ一般的です。さらには、日本の労働人口の大多数を占めている会社員の場合、会社内での異動・昇格などの経歴、つまり「組織内キャリア」が、キャリアのすべてになっている人もまだたくさんいます。

このように、「キャリア」という言葉を、職業上の変遷だけを意味するもの、つまり職業という限定された意味だとするのが、狭義のキャリア=「ワークキャリア」です。

ワークキャリアを考えることももちろん大事なことではありますが、そのワークキャリアを含め、人生全体を視野に入れた「ライフキャリア」を考えることが、働き方そのものを見直すためにとても重要となってきます。

キャリアで目指すべきは全体の幸せ

ワークライフバランスという言葉があるように、ワークキャリアとライフキャリアのバランスが取れていることは、充実した人生を送るための前提条件です。仕事に重点を置きすぎて、過重労働や長時間労働を続けると、仕事ではそれなりの成果が上がったとしても、心身の調子を崩したり、親や家庭人などといったライフキャリア上の他の役割がないがしろにされたりして、結果的に破綻してしまう危険があります。

ワークキャリアとライフキャリアの比重は、ライフステージによって、大きくなったり小さくなったりします。柔軟に両者を変化させながら、自分に合ったキャリアを築いていくのです。

「キャリアデザイン」とは

私はキャリアデザインを「より豊かに、より幸せに過ごすために、これからを前向きに描くこと」と定義します。そして、その考え方を「キャリアデザイン思考」としています。

キャリアアップと聞けば、通常は会社内でより上位の職務、役職に就いて昇給したり、転職して待遇のよい会社に移ったり、社会的に地位が高いといわれる仕事に就いたりするキャリアチェンジがイメージされるでしょう。しかし、そのような職位や給与の上昇や待遇アップが、人生の幸せとイコールとならないこともあります。

報酬や地位、スキルなどの向上を目指し、それを実現したことにより、幸せな人生を歩めるのであれば、それはとても素晴らしいことです。一方、あえてそのようなキャリアアップから外れて、周囲からキャリアダウンと思われるような選択をしたとしても、その結果として、本人の幸福度がアップするのであればもちろんよいのです。

どちらに進めばよいのかわからないと、キャリアについて迷いがあるのなら、いったん立ち止まって、自分にとって目指すべき幸せはなにかを、見直してみるのがよいでしょう。

適職発見に役立つ理論

キャリア・アンカーとは、その「いかり」のように、年齢や経験を重ねていってもぶれることがない自己概念(価値観や欲求)のことであり、エドガー・E・シャイン博士によって提唱されたキャリア理論です。簡単にいうと、働く上で、自分がもっとも大切にしていること、どうしても譲れないこと、という意味になり、自分のキャリア・アンカーを知ることは、より自分に合った働き方やキャリアを選択していけることにもつながります。

どんなキャリア・アンカーがあるのかを確かめるためには、次の3つを考えて、それが重なるところにあるものとされます。

・何をしたいか(動機と欲求):Will

・何が得意か(才能と能力):Can 

・何をしているときに充実しているか(価値観):Must

自分のキャリア・アンカーが明確になったら、希望する仕事とマッチングするか否かを確かめる必要があります。シャイン博士は自分の譲れない価値観と、環境の変化や組織側のニーズとの調和を図り、地に足のついたキャリアを設計していく「キャリア・サバイバル」を提唱し、キャリア・アンカーとともに重要な概念としています。

人生のチャンスを掴む為の理論

アメリカの心理学者、クランボルツによって提唱されたのが、計画された偶発性あるいは計画的偶発性と呼ばれるキャリア理論です。ごく単純化していえば、キャリアは偶然で決まることも多いから、そんなにガチガチに決めて考えずに、偶然をうまく利用しようということです。クランボルツの研究では、満足して働いている人の8割が、本人の予想もつかない偶然の出来事によってキャリアが決定されていたとのことです。

中年期以降の危機についての理論

40代・50代は体力的にも精神的にも曲がり角になるタイミングです。19世紀に生まれ、同世代のフロイトと並ぶ精神分析学、心理学の大家であるユングは、この世代を「人生の正午」と名付けました。人生の正午が最大の危機になるのは、まず身体、体力的な衰えが始まり、それまでと同じような仕事や生活ができなくなることがあります。また、家族関係に変化が生じるのもこの時期です。人生が後半に差しかかったことが感じられると、いままでの人生とこれからの自分に断絶を感じてアイデンティティの危機が生じるのです。

40代〜50代の役割はかなり多くのことが当てはまり、しかもその役割を担う上でも中核となって対応することが多い年代なので、とてもたくさんのことをやらなければならなくなり、肉体的・精神的な負担が大きくなります。これから40代、50代を迎える若い世代の方も、これらの危機が起こることを事前に知っておくことが大切です。

キャリアデザイン思考を身につけよう

キャリアを考えることは山登りに似ている

山登りに必要なのは次の5つのステップです。

(1)自分のいる位置を知る

(2)自分の周囲の状況を知る

(3)目指す目的地を確認し、そこまでの道筋、時間、危険などを確認する

(4)意思決定し、行動する

(5)その時々の状況に適応し、必要に応じて変更する

この5つのステップをもとにキャリアデザイン思考を説明していきます。

 

プレステップ 多くの人は、トランジションをきっかけにキャリアを見直す

どうしても拭いきれない大きな不満や失望が生じたとき、それまでの考えていたキャリアの道が終焉し、ニュートラルな状態、つまりトランジションが発生します。

4S点検は、トランジションについて論じているナンシー・シュロスバーグが提唱している理論で、トランジションを乗り越えるために活用できる、以下の4つの内的資源を点検するものです。

(1)状況(転機の原因、予期、期間、体験、ストレス、認知等)

(2)自己(仕事の重要性、仕事と他のバランス、変化への対応、自身、人生の意義)

(3)周囲への支援(よい人間関係、励まし、情報、紹介、キーパーソン、実質的援助)

(4)戦略(状況を変える対応、認知・意味を変える対応、ストレスを解消する対応)

この4S点検を一緒に行うことで状況も整理され、これらの資源をもとに、今後の具体的な戦略を立てていくための下準備ができるのです。

ステップ1 自分を知る(自己理解)

・これまでにどんなキャリアを積んできたのか

・どんな性格で、得意なこと、苦手なことはなにか

・できること(スキル)はなにか

自分はどういう人間なのか、という自分のアイデンティティについて深く考えることは、キャリアデザインに限らず、人生での幸せをつかむ上で大切なことです。

ステップ2 周囲の状況を知る(社会理解)

キャリアは自分だけでは作れません。必ず、対象となる相手(たとえば会社や仕事)があり、その相手との関係の中で作られます。そして、自分も相手も社会の中で存在しており、時代ごとの社会のあり方や、その変化から影響を受けています。

(1)経済動向(景気)と、それに応じた求人動向(有効求人倍率)

(2)一般的な産業構造の変化

(3)職業理解

興味を感じる業種、職種について、そういったさまざまな面を理解しておくことは、キャリアデザインにおいて重要です。

ステップ3 今後の方向性とギャップ分析

ステップ1・2において、過去の自分のキャリアや、現状を見つめ直し、自分の性格の特性や適性も踏まえ、さらには社会や経済の環境なども考慮しながら、具体的に、どんな業種で働きたいのか、どんな職業に就きたいのかを考えていきます。ただ、まずは慎重に、自分のできることとできないこと、つまりギャップを分析する必要があります。

ギャップの大きさは、現状の自分と理想の自分との距離によって決まります。そしてそのギャップがいまのままでは乗り越えられないと思われる場合は、それを乗り越えるための方策を講じる必要があります。本当はギャップがあるのに、真剣に向き合わないのはよくありません。

ステップ4 意思決定して、行動を起こす

ステップ3までを行ったあとでも、「やっぱり不安で踏み出せない」という人もいるかもしれません。無理をして、いますぐに行動を起こす必要はないのです。準備だけを怠らないようにしながら、自分のなかで不安なくキャリアチェンジできる気持ちになるまで、少し待ってみることも一つの方法です。

自分の人生物語の書き手となって、新たな人生テーマに沿って、より豊かに、より幸せに過ごすためのこれからを前向きに描き、それを実現していくことです。常にオープンマインドで、偶然の出来事が起こるように積極的に過ごしましょう。必要であれば、何回でもキャリアをデザインし直すこともできます。

ステップが重要な理由

キャリアデザインの方法として、「まず最初に、自分がなりたい姿を思い浮かべましょう」というやり方もあります。しかし私は、ステップ1の自己理解、ステップ2の社会理解を踏まえた上で、その次に目標を定めるという順序がよいと考えています。というのも、自己理解・社会理解のステップを踏まえていないと、実現可能性が低かったり、本人の適性とかけ離れた目標を設定してしまったりすることがあるためです。

ステップの順番は前後してもよいので、必ず4つのステップを踏むようにしていただければと思います。

著者
小林 さとる
大学卒業後、埼玉県内の商工会議所にて約5年間勤務する。その後、転職を一度経験して、2002年に有限会社ウィザード(現 株式会社ウィザード)を設立。パソコンスクールを中心とした事業を開始。2004年からパソコンや簿記等の公共職業訓練を受託し、のべ3800人以上の求職者のキャリア形成に携わる。そのほか法人向けコンサルティング事業を実施。2013年に一般社団法人キャリアパスポート協会を設立し、キャリア形成・キャリア教育に関する支援を行う。この間、大学院に通い、キャリアデザイン、労働経済に関することを学び専門性を深める。2022年から駒澤大学・高崎経済大学の講師としてキャリアデザインの講義も担当。
出版社:
ディスカヴァー・トゥエンティワン
出版日:
2023/1/27

※Bibroの要約コンテンツは全て出版社の許諾を受けた上で掲載をしております。

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