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やってはいけない不動産投資
藤田 知也
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朝日新聞社記者の著者が、ウソに塗り固められた不動産投資の世界を徹底的にルポ。業者の手口から身を守る方策まで、現場を知悉する報道記者が詳細に伝授した本書から、悪質な業者の手口や身の守り方を抜粋してご紹介します。

「長期保証」で油断させる

ヒツジを狙うハイエナたち

2018年1月。シェアハウスの運営会社「スマートデイズ」がオーナー向けの説明会を開催した。スマートデイズは「シェアハウス投資」を考案し、世間に広めた会社だ。13年秋以来、売りさばいたシェアハウスは未完成分も含めて計約1000棟。集めたオーナーは約700人に上る。オーナーと、物件を借り上げる「サブリース契約」を結び、入居者からは家賃を集め、オーナーには賃料を払う。「30年間完全定額家賃保証」とうたって客を集めた時期もあった。主力ブランドは女性専用のシェアハウス「かぼちゃの馬車」。新築で家具付き、敷金・礼金も不要、地方から上京する若い女性向けにニーズがある、という触れ込みだった。「お金のない若者の出発を助ける社会貢献」というセールストークにくすぐられたオーナーも少なからずいた。

ところが、オーナー向けの説明会で、「資金繰りが苦しく、賃料は払えなくなった」と通告したのだ。オーナーの多くは銀行から多額の融資を受けているため、生命線である賃料収入が断たれ、借金返済が困難になって大混乱となった。

物件価格は一様に相場より高く、スマートデイズ側が1棟につき4割前後、数千万円の粗利益を得ていたことも明らかになった。物件の入居率は9割超で、入居者向けの人材紹介など家賃以外の収入も見込めるため、高利回りが実現できるのだと、もっともらしく宣伝していた頃でさえ、入居率が4割前後しかなかった。入居者向けの商品PRや仕事紹介も、結果は17年時点で月に数百万円程度、1棟につき1万円も得ていなかった。要するに、ウソで塗り固めた勧誘で寄せ集めた客に、億単位の借金をさせてシェアハウスを買わせまくったのだ。1棟売るごとに数千万円を荒稼ぎしては、その一部を既存のサブリース賃料にあてる「自転車操業」で、破綻は時間の問題だった。

業者のえじきになるタイプ

シェアハウスの被害弁護団が約180人の物件オーナーを対象にしたアンケートによると、オーナーは

9割超が男性。年収は400万~1000万円超と幅広い層に分布し、中心は700万~800万円台。多くは社会で恵まれた属性に入る。彼らの性格や特徴は一様ではないが、不動産投資に走る動機は「将来の備えとなる蓄えをつくりたい」でほぼ一致している。その漠たる不安感は、同世代の会社員なら身に覚えがあるところだろう。

内部資料によると、不動産業者による土地の仕入れ値と建築費を合わせた平均価格は、1棟あたり7980万円。一方、銀行からの平均融資額は1億3000万円台。客への販売価格は融資額と同水準で、利益が大幅に上乗せされていたことがわかる。客が自分で売り地を探し、建築会社にシェアハウスの設計と建築を直接頼んでいれば、物件価格は数千万円も安くできたということだ。

多くの人は周辺相場とそこまで開きがあることに注意を払わなかった。業者が賃料を払ってくれる「サブリース契約」、もしくは「家賃保証」「空室保証」などという言葉に目を奪われ、安心させられていたせいだろう。現場に行って自分の目で確かめることもなく、多額の投資をした人も多い。気が緩んでいた、という面も否めないだろう。シェアハウスが初めての不動産投資ではない、という人も意外に多い。初めての投資なら、警戒心が強く、慎重に行動する。しかし、二度目、三度目と重ねるうちに、「慣れ」が生じて警戒心も薄らぎ、業者の言いなりになりやすい。そうなったら不動産業者の思うつぼになる。

「今がチャンス」と錯覚させる

投資ブームでアパート乱立

日本で多くの会社員を巻き込んだ「不動産投資ブーム」は、2013年から17年にかけて沸き起こった。12年末に発足した安倍政権の経済政策「アベノミクス」のもと、景気が緩やかな改善を続けた時期と重なる。13年4月にスタートした前例のない規模の金融緩和は、一般の企業や家計にお金を使わせることには失敗したが、投資家を扇動してお金を動かすことには成功した。金融市場では、金利がぐんぐん低下し、円安・ドル高に拍車をかけ、株高も加速させた。中央銀行が自ら株や不動産投資信託を買い漁った効果もあって資産価格は上昇した。

日銀にあおられた投機マネーの受け皿の一つとなったのが不動産市場だ。住宅ローンなどの指標となる長期金利は、2012年末の安倍政権発足時の年0.8%前後から、徐々に低下して15年にはゼロ%台前半に。16年夏にはマイナス0.3%程度まで沈んだ。金利の低下は、借り手の返済負担を軽くし、不動産投資の間口を広くする。当然、同じ金額を同じ返済期間で借り入れても、金利が低ければその分だけ月々の返済額は小さくなる。金利が高いときに比べ、より年収の低い人でも借りられる、あるいは借入額を増やすこともできる──これが、あちこちで飛び交った不動産業者たちの定番的なセールストークだ。

さらに、金融緩和による影響は、金利の表面的な数字だけでなく、金融機関の貸し出し姿勢を変えることによっても、不動産投資の間口を広げることに貢献した。銀行にとって主力の優良企業向け融資や住宅ローンは稼ぐ力を失ったため、多くの銀行は金利がまだ高めの不動産投資ローンや個人向け無担保ローン(カードローン)を増やすことに精力を注いだ。カネ余りで貸出先が見つからない銀行にとって、不動産投資に目覚めた会社員や地主は格好のカモに映ったことだろう。多くの銀行が不動産投資ローンを拡大させようと目標数値を定め、従来は貸さなかった客層や物件にも対象を広げ、審査の基準を緩めていった。

投資マネーの流入を反映して、不動産の価値は都心部を中心に大きく上昇したが、物件価格が上がるわりに、賃料はそれほど上がっていない。物件価格が上がり、賃料がほとんど変わらなければ、起きるのは「利回りの低下」だ。

同じ物件に投資するにしても、いつ、どのくらいの相場で買うかで利回りが決まり、投資の成果を大きく変える。12年に投資した人はそこそこの利回りで物件を買えた可能性があるが、その後は年を追うごとに価格が高くなり、ブームのピーク時にあたる17年に買った人は利回りが最も低い状態で投資をスタートさせたことになる。本当は不利なタイミングなのに、それを隠して多くの人を呼び込んだのが、不動産業者による巧みな勧誘テクニックだった。

「リスク」から目をそらす

「フルローン」と「オーバーローン」

客を引っかけて投資物件を買わせ、仲介料や紹介料を稼ぐ営業マンやブローカーは不動産投資をやっている客に目を付ける。警戒心が薄く、物件をこまかく吟味せず、判断がおざなりになりやすいため、効率よく契約を取れるからだ。ただ、最初の投資で貯金の多くを使ってしまっているから手持ちの資金は乏しい。そんな客たちへの決めゼリフは、「自己資金ゼロでもイケますから」だ。

自己資金ゼロは、不動産購入に必要なお金をすべて金融機関からの借金でまかなうことを意味する。物件価格の100%を銀行からの借金でまかなう「フルローン」は、諸経費を自分で用意するため「自己資金ゼロ」とはなっていない。

本当の「自己資金ゼロ」とは、諸経費も含むすべての費用を借金でまかなう「オーバーローン」と呼ばれる状態だ。銀行はお金を貸すのと引き換えに物件を担保として押さえ、借り手がお金を返せなくなった場合には物件を処分して借金の相殺を図る。これは、銀行が過大なリスクを背負うことにつながり、本来はめったにないことだが、業者は銀行の目を欺いてオーバーローンを実現させる。

銀行を欺く三つの方法

「自己資金ゼロ」で物件を買わせる手口は、おもに三つある。

一つは、ローンを組む銀行にはナイショで、別の金融機関から無担保でお金を借りさせることだ。諸経費などの不足分を別の信販会社や銀行の無担保ローンでこっそり借りさせ、銀行には「自己資金がたくさんある」とウソをつく。ただ、いくらか賢明な客なら、金利の高い借金を抱えることは敬遠するだろう。

二つ目の手口は、不動産業者側の利益の一部を客に回してあげること。たとえば紹介料の半分を客の諸経費にあて、物件価格はすべて銀行からの融資でまかなえれば、客の自己資金はゼロの状態で契約に持ち込むことができる。しかしこれは、売る側にすればなるべく避けたいと考える。

そこで三つ目の手口が浮かび上がる。銀行にあえて高額の物件価格を伝え、本来の物件価格を上回る融資額を引き出すという「二重契約」スキームだ。

たとえば1800万円で売り出している物件で、物件価格を2200万円とするウソの売買契約書を作成し、2000万円の融資を申し込む。本当の価格は1800万円なので、2000万円の融資を引き出せれば、借りたお金で物件価格と200万円程度の諸経費をぜんぶまかなうオーバーローン=自己資金ゼロが実現する。これは犯罪同然の行為にもかかわらず、投資不動産を売り買いする現場では当たり前のように横行している。客に罪悪感を抱かせないように、業者が巧みに誘導しているからだ。

常套句の一つは、「お値引き」である。実際には1800万円での売り買いに合意しながら、いったん2200万円という水増し価格で契約書を交わしたあとに、400万円分を「お値引き」する形とする。「値引きすることは、よくあること」。そんなセリフで丸め込んでいく。「お値引き」という言葉には、どこか不正の意識を薄め、罪悪感も打ち消す効果があるらしい。続けて「みんながやっていることですから」とたたみかけると、易々と受け入れる客は意外に多いという。業者は、ウソの契約書で多額の融資を引き出すことのうまみを覚えると、不正は尽きることなく広がり、売りさばく対象は、金額の大きいものに移っていく。そのほうが大きな利益を一気に稼げるからだ。

不動産投資の広告や情報サイトには、「自己資金ゼロ」「他人のお金が収益を生んでくれる!」というセリフもよく見かける。実際には、多額の借金を組まされ、その返済は、受け取れるかどうかが不確かな家賃収入が頼みの綱となる。つり上げた物件価格をもとに銀行から多額のお金を借り入れたツケは、リスクとともに、ぜんぶ客に回ってくるのだ。

仲介手数料のルールは無視

仲介手数料は「物件価格×3%+ 6万円」というのが上限だと、国土交通省の告示によって定められている。ところが、本書で取り上げる不動産投資の事例では、多くの不動産業者が、「三為契約」を利用し、物件価格(仕入れ値)の2~4割もの利益を買い手となる顧客から巻き上げている。

昨今、不動産市場を席巻する「三為業者」による転売行為は、売り主と買い手を見つけ、ただ価格をつり上げて物件を横流しするという荒っぽい仲介行為だ。具体的には、業者は物件の売り手と「三為契約」を交わす。これは、業者が第三者に転売することを前提に、所有権は売り主から第三者である別の買い主に直接移転する「特約」をつけた物件売買契約だ。客に売るときの売買契約も、三為契約となっている。価格をつり上げたうえで、間に入る三為業者のいずれかが「売り主」となる。契約書にはやはり「特約」の記載があるはずで、所有権は別の第三者から買い主に直接移転するものとし、万一にも売ることができなければ違約金を払うと約束する内容だ。

こんな複雑な三為契約が業者にとって好都合なのは、おおもとの所有者から物件を買い取る値段(=仕入れ価格)が、カモとなる最終的な買い手には知られずに済むことだ。三為契約によって元値を隠してしまえば、客をダマすのは難しくない。「家賃保証」「自己資金ゼロ」「高利回り」など、ウソでも客をおびき出すカードはいくらでもある。それで引っかかってしまう客がたくさんいることも、三為業者が跋扈する理由の一つだ。

それでも投資したい人のために

ブームのあとにチャンスはやってくる

市場が冷えきって誰も買わないようなときが不動産投資の好機である。理由は、単に価格が安いからだけではない。誰も手を挙げないときに、あえて踏み出すのは勇気がいる。価格がまだまだ下がるのではないか、という不安がとくに大きい。ただ、売る側の不安も大きければ、売り物件が続々と出てくる。買う側にすれば、不安は漂うものの、物件選びの選択肢が増え、じっくりと吟味する余裕もある。単に安いだけでなく、素人でも好立地で好条件の物件が手に入りやすくなる。それが「下げ相場は買い時」と考えられる所以だ。

プロたちが投資の「好機」と見なすようなタイミングがあるとすれば、だれも不動産などに手を出そうとは思わない、不況の折にやってくる。そんなタイミングで、ふつうの会社員が大金をはたいて不動産に投資することは、荒波に向かって小舟をこぎ出すようなものだ。それだけの覚悟はあるか。これから投資を始めようという人は、自分に問い直すといい。

不動産価格が値上がりすることを前提にした投資計画もあてにしてはいけない。買った物件を数年後に売却して利益を得る前提の「出口」論も、ただの皮算用に過ぎない。不動産が値崩れし、なかなか買い手がつかないシナリオにも、十分に対応できるようにしておくことが大事なのだ。

業者の手口に学ぶ「不動産投資4カ条」

①自分の目と足で見極めろ

第一に、「家賃保証」は決してあてにしてはいけない。

業者の「家賃保証」には、業者の勝手な都合で家賃が踏み倒されたり家賃の減額を迫られたりするリスクが必ず潜んでいる。そもそも業者がなぜ、空室時の家賃を保証しようとするのかを考えてみるといい。保証がなければ売れないようなシロモノだからだ。勧誘時に不動産業者が空室家賃を保証するとうたうときは、その保証を優に上回る「儲け」が購入価格に組み込まれている場合が多い。家賃を保証するためのお金を、あらかじめ自分で払わされているようなもので、価格はその分だけ割高となる。

家賃保証がなくても、空室にはなりにくく収益性が見込める物件であることを、自分の目と足で

見極めることが、不動産投資を始める最低限の条件だ。忙しくてそれができないというなら、投資

を諦めるか、あるいは宝くじでも買うくらいの腹づもりでやるしかない。

②コストとリスクをぜんぶ洗い出せ

第二に、業者が示した「利回り」もあてにしてはいけない。

想定される満額の家賃収入を物件価格で割る「表面利回り」は、無数にある投資物件をふるいにかけるには便利な目安だが、実際は、さまざまなコストが確実に差し引かれる。隠れたコストやリスクが大きいと、利益が出ずに収支がマイナスとなる恐れがある。表面的な利回りは単なる参考値に過ぎないのだ。

物件の収益性を検討するには、コストとリスクをできるだけ洗い出し、より現実的な実質利回り

を自分なりに算出してみるといい。

区分マンションであれば、管理費や修繕費の額、中長期的な修繕計画の中身、管理組合の議事録

などから、おおよそのコストを見積もりやすい。実際に足を運んで物件を見て回れば、コストが膨

らむ見込みや、管理の行き届き具合も見えてくるかもしれない。総戸数の多い物件なら、建物全体の修繕費や管理費を割る頭数も多くなるので、コストやリスクは応分に小さくできる。

利回り計算のもととなる収入も、どれだけ妥当性があるかは自分で見極める。物件の立地や環境を調べ、賃貸募集のサイトと見比べることなどで、ある程度は把握できるだろう。何度でも物件に足を運び、徹底的に吟味するのは当然だ。努力や手間を惜しめば、投資が失敗して「負け」となる確率は高まる。

③迷ったら必ず引き返せ

第三に、業者の言うことをうのみにしないことだ。業者の一番の目的は、物件を売り、客が払う代金から少しでも多くの利益をかすめ取ること。そもそも業者と客との間には、大きな「情報の非対称性」がある。客が自分で知識や情報を集め、よほど真剣に物件の真価を見極めない限り、客にとって不利な情報は伏せられた状態で、投資の判断を迫られることが少なくない。

不動産投資の枢要は、投じる資金に対し、そこそこの利回りを中長期にわたって得られるかどうかにかかっている。そこで求められるのは、現実的な家賃を想定し、空室になりにくい物件を、余計なコストはなるべくかけず、妥当な値段で買い入れられるかどうかに尽きる。

後悔がないように、不安や疑問を完璧に解消するまでとことん突き詰める。自分自身が「これならいける」と十分に納得できたときにだけ踏み出すようにすればいい。

④身の丈に合った投資をせよ

最後に、自身の身の丈に合った投資にとどめることだ。多額の借金を組んで過大なリスクを背負うことは、資産を増やす可能性と引き換えに、家族や仕事をも巻き添えにして、自分の人生を賭しているようなものだ。

ある程度の知識を備え、分別のつく社会人でさえ、ひとたび業者の術中にかかれば、気づかぬうちに過大なリスクを背負わされ、後戻りできなくなってしまうことがある。それは誰の身にも起こりうるものだ。不動産投資で引き受けるリスクは、自身の貯蓄がいくらか目減りして、泣いてやり過ごせる範囲まで。最悪のケースに見舞われ、投資が失敗したとしても、路頭に迷うことがない程度に収めるべきだ。

自分の力では返しきれないほど多額の借金を組むようなことはしてはいけない。無謀な投資で身を滅ぼすことだけは避けるために、この一線は決して譲ってはいけない。

著者
藤田 知也
朝日新聞記者。早稲田大学大学院修了後、2000年に朝日新聞社入社。02~12年「週刊朝日」記者。経済部を経て18年4月から特別報道部に所属。著書に『強欲の銀行カードローン』(角川新書)、『日銀バブルが日本を蝕む』(文春新書)がある。
出版社:
朝日新聞出版
出版日:
2019/5/14

※Bibroの要約コンテンツは全て出版社の許諾を受けた上で掲載をしております。

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