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35歳から創る自分の年金(上級編)
是枝 俊悟
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資産形成
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税金・保険・年金
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「繰り下げ」は、あてにするべきではない

年金の支給開始年齢を繰り下げると、年金の受給額は大きく増えます。政府の現在の案をベースとすると、65歳支給時の金額を100とすると、70歳支給開始なら年金額は142、もしも75歳支給開始なら年金額は184と、なんと2倍近くまでに増えます。

70歳支給開始であれば、妻が今後ずっと扶養のままであり、かつ、経済が衰退シナリオをたどっても、なお、年362万円もの年金を確保できる計算になります。これが75歳支給開始であれば、年金額は年469万円にもなります。

したがって、計算上は、夫が70歳かそれ以上まで働き続けられるなら妻が扶養のままであっても老後は安心、ということにはなりますが、私は今から繰り下げをあてにするべきではないと思います。

今、夫婦で働けるかは今の努力次第でなんとかなるかもしれませんが、(夫が)70歳まで働けるかどうかは、あとになってみないと分からないためです。

長く働くことを見越して今から長期のライフプランを考えたり、健康に気をつけたりするのはよいことだとおもいます。しかし、いつから年金を受け取るべきかを考えるのは「35歳」の私たちにはまだ気の早い話です。今できることとしては、なるべく世帯の生涯賃金が多くなるように働いていくことだと思います。

公的年金の「弱点」を資産形成で補う

公的年金にも「弱点」が存在します。

夫が平均的収入を得て、妻に生涯専業主婦(または扶養の範囲内の収入)の「モデル世帯」の年金額は2019年度現在では年266万円ですが、今後の経済状況によっては減っていく可能性があり、私たちが65歳になったときには年227万円になる可能性もあります。

ただし、妻が生涯専業主婦(または扶養の範囲内の収入)というモデル世帯の前提は、世代を追うごとに平均像から乖離していきます。「寿退社」をしていた今の65歳の世代と比べると、私たちの世代の女性の生涯賃金は35歳時点までをみても格段に増えており、今後も共働きを続ける世帯ではますます増えていくことでしょう。女性の収入も含めて世帯の年金額をきちんと評価すれば、年金の未来はけっして暗くないのです。

しかしながら、公的年金には弱点もあります。独身の場合はそもそも1人分の年金で生活すると生活費が苦しくなりやすくなっています。自営業やフリーランスで働く方、副業を掛け持ちする方などについては現状、公的年金で十分にカバーされていません。共働き世帯であっても、夫婦のいずれかがなくなった後は給付が大きく減ってしまいます。

また、これまであまり強調してこなかったのですが、共働きで生涯賃金が多くなると、年金額そのものは多くなるのですが、現役時代の年収と比べた年金額の割合(所得代替率)は低くなり、自分の現役時代と比べた「相対的な貧しさ」を感じやすくなるという問題もあります。

自ら貯蓄・投資を行って資産形成を行うことで公的年金の弱点を補うことができます。

豊かな共働き世帯ほど「所得代替率」は低くなる

年金の絶対水準でみると、モデル世帯(中収入男性と専業主婦)の年249万円に対して、中収入の共働き世帯(中収入男性と中収入女性の組み合わせ)では年348万円、高収入の共働き世帯(高収入男性と高収入女性の組み合わせ)では年538万円と、かなり多くなっています。

ただし、これらの共働き世帯の現役時代はもっと豊かです。現役時代の平均年収は、中収入の共働き世帯では1010万円、高収入の共働き世帯では1882万円もあります。現役時代の平均年収と比較すると、348万円や538万円の年金はどうしても見劣りしてしまいます。

2050年度の国家維持シナリオの下での厚生年金額は(勤務期間を40年として) 現役時代の平均収入の22%、基礎年金は夫婦で年130万円となる見込みです。モデル世帯においては現役時代の平均年収が552万円にとどまるため、夫婦の基礎年金が平均年収の24%に相当し、厚生年金と合わせた所得代替率は46%となります。

現役時代の平均世帯年収が高ければ高いほど、それに対する基礎年金130万円の割合は下がっていきます。平均世帯年収1010万円に対しては13%、1882万円に対してはわずか7%にすぎません。このため、厚生年金と合わせた所得代替率は、中収入の共働き世帯では35%、高収入共働き世帯では29%と、世帯年収が高い世帯ほど下がっていくのです。

現役時代と比べてもあまり生活水準を落としたくない、例えば現役世代の6割や7割の収入を確保したいなどと考える場合、高収入の共働き世帯ほど、より多くの資産形成が必要となります。

物価上昇を上回る資産運用を目指す

老後に向けてお金を準備しようと思うと、多くの人が真っ先に思いつくのは「銀行預金」や「個人年金」ではないかと思います。

しかし、円建ての銀行預金や個人年金保険では、お金はほとんどふえません。2020年1月現在、相対的に金利の高いネット銀行の定期預金であっても年利0.1%程度です。

保険料を月払いして、固定された年金額を受け取るタイプの円建ての個人年金保険では、払込金額に対して受け取る年金額が5%程度増えればよいほうです。年利5%ではなく、30〜40年間累計で5%ですので、1年あたりに直すと0.1〜0.2%しか増えません。

一方で、これまで続いてきたデフレはあまりみられなくなり、だんだんと物価が上昇することが多くなってきました。

2011年以後の消費者物価指数(CPI)総合の推移において2019年までで、物価が上昇した年は8年中6年、累積の物価上昇率は5.7%(消費税率引き上げ分を除いても3.3%)になります。

2050年の物価は今の1.2〜1.8倍

将来の年金額について、全て現時点の物価に換算していくら相当であるかを示してきました。これは、将来の年金額そのものを示すよりも、現時点での物価に換算した金額を示した方が、老後にどの程度の水準の暮らしができるかイメージしやすいためです。

しかし、実際の金額でみると、将来になればなるほど物価が上昇していることが予想されます。

それでは、私たちが65歳になる2050年時点ではどのくらいの物価水準になっているでしょうか。

政府の財政検証においては、今の1.2〜1.8倍になることが予想されています。経済状況が悪いほど物価上昇率も低く抑えられますが、衰退シナリオにおいても2050年時点では物価は今の1.2倍に上がることが想定されています。

これから30年かけて、仮に銀行預金や個人年金保険でお金を5%増やしたとしても、物価が20%上がったとすると、使えるお金は実質15%ほど減ってしまうことになります。

公的年金の「長期・分散投資」が参考になる

もっとも、物価上昇による目減りを防ぐために株式などで資産運用をしようとしても、運用の失敗で逆に大きく資産を減らしてしまうリスクが心配になるかと思います。

リスクを抑えながら資産を安定的に増やすことを目指す場合、私たちの公的年金の積立金を運用している年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)の運用方法が参考になります。

公的年金の積立も、全く運用もせずに寝かせてしまうと、物価上昇により実質的に目減りしてしまう恐れがあります。

このために、GPIFは、「資産、地域、時間等を分散して投資することを基本とし、長い投資期間を活かして、より効率的に収益を獲得する」(投資原則より抜粋)ことを目指して積立金を運用しています。

具体的には、国内債券、国内株式、外国債券、外国株式にバランスよく投資を行っています。


老後のためにどのくらい積み立てたらいいの?

それでは結局、毎年いくらぐらいの金額を積み立てて投資に回したら、満足のいく老後の生活を送ることができるの?と思った方も多いと思います。

この問いに答えるには、現在の年収、将来の収入、退職金、働き方、資産運用の仕方、住宅ローン有無、親から受け取る遺産の有無など、考慮すべき要因がたくさんあります。このため、人それぞれということにはなるのですが、大胆な仮定をおいた上でざっくりとした目安を示したいと思います。

経済前提については、やや厳しめの国力維持シナリオをベースに、私たち、現在35歳の世代が年金を受け取る2050年の所得代替率を、モデル世帯で46%、中収入の共働き世帯で35%、高収入の共働き世帯で29%としました。

2019年度に65歳になったモデル世帯の所得代替率はおよそ6割です。年金生活者は、これに加えて手持ちの金融資産の一部を取り崩しながら生活費に充てており、家計調査によると、70代の夫婦世帯の消費支出は50代の夫婦世帯の7割くらいです。これらを参考に公的年金と資産の取り崩しを合わせた所得代替率の目標を6〜7割と設定してみます。つまり、現資産の年金受給者と同程度の所得代替率を目指すという考え方です。

資産の利回り(物価上昇率控除の実質)については、国力維持シナリオの下で想定されいるGPIFの運用利回り(年利2.5%)から、0.5ポイントを差し引いた年利2.0%と設定しました。0.5ポイントを差し引いたのは、個人で資産運用を行う場合はGPIFよりは(運用する金額あたりの)コストがかかることや、運用効率が下がることが考えられるためです。

モデル世帯よりも共働き世帯の方が、共働き世帯の中でもより高収入世帯の方が、それぞれ公的年金の所得代替率が低くなる分、公的年金+取り崩しで6割7割の所得代替率を達成するための積立率はより高くなります。

ざっくりとした目安を示すならば、世帯年収(税引前)に対する毎年の積立率は、妻が専業主婦のモデル世帯の場合でも5〜10%程度、共働き世帯で10〜15%といったところでしょうか。世帯年収500万円の専業主婦世帯で年間25万〜50万程度、世帯年収1000万円の共働き世帯で年間100万〜150万円程度が目安となります。

つみたてNISAの1年あたりの投資上限が40万円、厚生年金に加入し企業年金がない場合のiDeCoの1年あたりの投資上限が27.6万円で両方活用すると合計で1年あたり67.6万円まで積立投資をすることができます。これは1人あたりの金額ですから夫婦では67.6万円×2で、年135.2万円までとなります。

あくまで大胆な仮定を置いた上でのざっくりとした試算ではありますが、世帯年収1000万円以上の共働き世帯が、現在の高齢者並の所得代替率を目指すのであれば、つみたてNISAとiDeCoの両方を夫婦で限度額いっぱいまで使うくらいの積立投資を行ってもよいかもしれません。

著者
是枝 俊悟
大和総研金融調査部研究員。社会保険労務士、CFPR。税制・社会保障制度、金融規制などの調査・研究を行い、制度改正による家計への影響分析を得意とする。妻とともに共働き子育てを実践中で、女性と男性の働き方や子育てへの関わり方についてもライフワークとして情報発信を行い、副業としての講演活動も行う。
出版社:
日本経済新聞出版
出版日:
2020/03/18

※Bibroの要約コンテンツは全て出版社の許諾を受けた上で掲載をしております。

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