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自分広報力
金山 亮
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副業・キャリア
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「自分広報力」はキャリアを成功に導く原動力

広報の本質とは、自分の提供した情報を第三者に価値あるものと認めてもらい第三者の口から発信を増幅させることで、自分のやりたいことをやりやすい環境へ整えることにあります。

そのために必要なのは周囲の関係者のニーズや課題を的確に嗅ぎ取り、どの部分で自分が役に立つ存在になりえるか素早く察知して巧みに打ち出す「ポジショニング」です。ポジショニングを見つけ出すことで、能動的な発信を仕掛けていける土壌が出来上がります。

自己発信といっても例えば、部下が上司に「私はマーケティングを専攻し成績優秀でした。もっとレベルの高い仕事に就かせてください」と言うのは、「一方的なラブレター」で上司の価値観や関心に刺さるか定かではありません。

下調べ抜きで自分の「スペック」情報をいたずらに発信しても、相手に誤解されてしまうリスクがあります。「自分広報力」は自己顕示とは全く異なるものです。

遠回りでも、上司の抱える課題を掘り起こし、その解決に自分の知識がこんな風に活用できますよということを折々に提案してみてはいかがでしょうか? あなたの事が自然に話題にのぼり、「○○に詳しいんだってね」と向こうから言われるようになればしめたものです。

「自分広報力」とは、自分の周囲のメンバーがかかえる課題や関心に目を向け、そこに自分の知見やスキルを掛け合わせポジショニングを築き発信し、価値を具体的に形に示して行くことです。周囲の相手が何を期待しているのかということに対する鋭敏な感性が求められます。

なぜ今「自分広報力」が必要なのか?

ビジネスパーソンが「自分広報力」を備えることが求められているのは、丸抱えの雇用関係から、その時々のビジネスニーズに応じて、必要なスキルや成果をやり取りする取引契約的な関係に近いものに徐々に変質して行くと予想されるためです。

これからは、クビにならない程度にやり過ごすことをよしとするサラリーマン的な発想が通用しなくなり、自分の市場価値の最大化に向けて積極的に発信し、理解者や賛同者を増やしていかなければなりません。

新卒一括採用・年功序列・終身雇用が不動の3点セットとして存在した時代であれば、社員はとにかく「仕事を一生懸命やっています」という姿勢を日々の行動で示していれば、いつか誰かが昇進や異動をアレンジしてくれました。

しかし、ジョブ型雇用や転職がごく普通になってくると、「見てくれているはずの誰か」がいつの間にかいなくなります。

「誰かが見ていてくれる」という根拠のない願望にすがるのではなく、自分の価値をどう見せて理解させていくのかを意識して戦略的に取り組むことが求められるようになっていくのです。

自分の「ポジショニング」の見つけ方

他者との関係の中で立ち位置が決まる

ポジショニングとは、自分が提供する価値を周囲がどのように評価しているかというあなたの立ち位置です。

具体的なステップの第一歩として直属の上司や同僚、チームメンバーなど身近な人たちとの間で、雑談の時間を意識的に設ける工夫をしましょう。いきなり雑談ですか?と驚かれるかもしれませんが、これが重要なのです。

雑談といっても、漠然と世間話をするわけでなく、目先の仕事に焦点を当てたガチンコの打合せでは出てこない相手の「文脈」を深く理解することを目的にした意思のある雑談です。一人ひとりの想いや悩み、その背景にあるキャリアの軌跡や将来に向けた目標や希望を分析するものです。

雑談のきっかけづくりに関してお薦めしたいのは、何でもいいので相手の(できれば仕事に関係のある)長所や実績を褒めて興味関心があることを示して、もう少しお話を聞かせてくださいと言って雑談に持ち込む方法、この一択です。

そして雑談タイムがやってきたら、最初にボルテージをあげて再度相手を褒めてください。人間は褒められるとうれしいと思うと同時に「もう少し裏話的な話を聞いてもらいたい」という気になるものです。

一対一の雑談タイムでは「口一耳九」くらいの割合にして、相手に話してもらいます。多少大げさに「盛った」比喩でほめることも会話を活性化させて本音を引きだす上で有効なテクニックです。その中で本音に触れ、周囲の抱える課題や大きな溝を把握していきます。

「ポジショニング」4つの役割モデル

周囲のメンバーの課題を踏まえて、あなた自身の取れそうなポジショニングについて考えていきましょう。その際、ヒントになる4つの典型的な役割モデルについて紹介していきます。

救済者:手の回ってない課題やタスクを自分から引き受ける

みんなが共通して困っている課題やタスクと、あなた自身のスキルや知見・ノウハウがマッチする部分に着目することです。

便利屋みたいに見られたくないとか、自分の方が年齢やポジションが上なのにとかいった変な見栄やプライドを捨てることで、今後の可能性を広げるユニークなポジショニングを築くきっかけが得られることでしょう。

代弁者:現場の課題や成果をデータでわかりやすく示し伝える

チーム内で頑張って成果を出しているのに、報われない感覚が蔓延していることがあります。あなたがデータ分析や図表作成などのスキル・知見を有しているのであれば、成果の見える化に率先してチャレンジしてみてはいかがでしょうか? 

周囲のメンバーのモチベーションアップに貢献することができますし、いざという時に頼りになる人という評価が定着すると思われます。

調整者:組織間のギャップや壁を解消するコミュニケーションに徹する

周囲のメンバーの認識にズレがあったり、溝があったりすることがあります。

あなたの経験やバックグラウンドが組織間の壁の解消に役立つようであれば、双方間のコミュニケーションを助ける独自の貢献を行うことが、ポジショニング作りにつながります。

開拓者:課題解決を示し周囲を巻き込み新たな取り組みを立ち上げる

この役割を果たすには、多くの人がまだ気づいていないような独自の先見性が求められます。

将来を読み解く感性を持ち、日頃から様々な分野の情報をキャッチしている人であれば、自分の属する組織の仕事を眺め「そっちじゃなくてこっちだよ」と言えることはたくさんあるでしょう。

「メッセージ思考」を鍛える

「自分広報力」に必要な思考法

ビジネスにおいてコミュニケーションはまぎれもなく力です。自分の目的を実現するために必要な相手に対して影響力を行使し納得や共感を通じて、自発的に意識や行動を変えてもらう力なのです。

自分広報力の威力を高めていくためには「メッセージ思考」が必要不可欠です。これはメッセージを効果的に組み立て伝えきるための思考パターンといえます。メッセージは、相手にとっての利点や意味づけ、動機づけにつながる要素が含まれていなければ、意識や行動を変える可能性は低くなります。

つまりメッセージとは、相手の思い込みや固定観念を打ち破り、こちらの目的に沿った意識や行動の変化を起こさせる言葉なのです。

「メッセージ思考」の組み立てパターン 

メッセージを上手く作る方法は、実はごく一部の広報・コミュニケーションのプロやビジネスエリートたちだけが知っていたり、暗黙知として使っていたりする組み立てパターンをマスターするだけです。基本パターンは、次の3つの要素から成り立っています。

1.将来仮説:みんなまだ気づいてないけれど、必ずこんな変化が訪れる

2.ソリューション:新たに生まれる課題やニーズにこう対応したら、大きなチャンスになる

3.差別化:できるのは、最善なのは、私たちが提案するこのやり方だけ。

理解、共感、賛同を得なければならない場面なので「これからどうなる」で相手の思い込みや既成概念を変えてもらい、「こんなことが求められるようになる」と畳みかけ、さらに数ある選択肢の中で「私が一番ですよ」のポイントを示して止めを刺すという組み立てになっています。良く出来たプレスリリースは必ずこういう構成要素で組み立てられています。

このメッセージの3要素は、メッセージ全体の骨格のようなものです。これに肉を加え、血の通ったものにして行くために必要なのが、プルーフポイントです。

プルーフポイントは証拠、訴えていることを裏付ける情報です。過去のデータや将来の予測、関連する事例や、第三者の発言から自分自身の実体験まで、メッセージ要素の信憑性を増すものであればなんでもプルーフポイントになります。

逆に言えば、何が自分のメッセージの効果的なプルーフポイントに使えそうかということについて、鋭敏な感覚を備えている人こそ、優れたメッセージ思考の持ち主だと言えるのです。

「メッセージ思考」を豊かにし発信力を高める

あなたがメッセージ思考をさらに強化するために、マスターすべきメッセージの基本パターンを2つご紹介します。

変革施策をチームメンバーに伝えるときの基本パターン

人間は現状維持志向が非常に強い生き物です。変革施策を味もそっけもない事務連絡で済ませるとメンバーの意識や行動を変えていくきっかけになるどころか、反発を招いて炎上するといったリスクも覚悟しなくてはなりません。

実は、変革施策を行う場合にも、3つのメッセージの組み立てパターンがあります。

1.変革の必要性:なぜ変わる必要があるのか、何が変わるのか、どこへ向かうのか

2.一人ひとりに求められる変化:どのような発想や行動の変化が求められるのか

3.提供できるサポート:会社として、一人ひとりが求められる変化を実現するために、どういうふうにサポートするのか

最初に変革の必要性を強く強烈に打ち出すことで、現状維持思考に揺さぶりを与える必要があります。次に、一人ひとりのレベルにおいて具体的行動を示します。さらに変化を可能にするため、どのようなサポートを提供するかという点を加えることで変化に寄り添う姿勢を示すという組み立てになっています。

想定外のアクシデントに見舞われた際に発信するべき基本パターン

アクシデント発生時は、起こったことを自分ごととして捉え、全体観をもって対応するとともに逃げかくれず説明責任を果たす姿勢を示すことが何より重要です。その第一歩として、事件・事故やクライシスなどの際の広報対応に使われる次のようなメッセージの基本パターンをマスターしておきましょう。

1.事態と発生原因:何が起きたのか、なぜ起きたのか、被害状況はどうなっているのか

2.お詫びと対応:発生自体をどう受け止めるのか被害者への対応はどうするのか

3.再発防止策:同じことを二度と起こさないために今後実施すること

あなたのメッセージ思考の引き出しに、この基本パターンを格納してください。いつでも使えるようにしておけば、どのような事態に遭遇しても何を確認しどのような情報を集め、誰に何を伝えなければならないのかをトータルで考えて行動することができます。

「ボロを出す」どころか、事と次第によっては、あなたの評価を上げることにもなりえるのです。

自分自身のアスピレーションの旗を掲げよう

「自分広報力」を備えた新のリーダーとして更にダイナミックに羽ばたいていくには、方法論やテクニックを越えたところで、メンバーの心を惹きつける何かが必要になります。私はそれをアスピレーションと呼びます。

アスピレーションとは内発的な希い(ねがい)に裏打ちされた「志」や「大義」といった意味合いの言葉です。

これからは、そうした内発的な動機や志をリーダーが備えるべき資質として、前向きに評価すべきです。そしてビジネスの推進力として積極的に活かして行こうとする流れが、企業側でもより一層顕著になることでしょう。

では、あなた自身のアスピレーションをどのような言葉で表現したらよいのでしょうか? 一言で言えば、それはあなたらしさが実感できると同時に、目の前の現実やしがらみを脱却した「突き抜け感」が伝わる言葉です。

最初は「何を綺麗事言っているんだ」と皮肉を言う人もいるかもしれません。しかし、機会を捉えてこうしたアスピレーションを発信し続けることによって「私もそう思う」「こんなアイディアもある」というふうに、思いを共にする仲間が現れてくるのではないでしょうか。

一人ひとりのビジネスパーソンが持つ情熱、こだわりなどがきっかけとなって、お客様や社会の隠れたニーズを探り当てて、新たな需要を生み出したり、イノベーションを起こしたりする可能性は、これからますます広がります。日頃から自身のアスピレーションを開示しておくことで、新たな価値創造に結びつくような信頼関係を築いていくことが肝要なのです。

著者
金山 亮
1964年、富山県生まれ。東京大学法学部卒業後、大手化学メーカーとゲーム会社にて海外企業との提携・折衝業務に携わる。その後、PR/コミュニケーション・コンサルティング世界最大手の一つであるフライシュマン・ヒラードの日本法人に準創業メンバーとして入社し、同社在籍中の8年間で国内外約200社に及ぶ企業のブランド構築、販売促進、企業変革支援、危機管理対応などを担当。2007年に外資系傘下で経営再建中だった大手流通企業に執行役員として招かれ、社内意識改革やブランド再構築に焦点をあてた社内外広報活動、CSR・サステナビリティ関連活動などを主導する。2015年からは、日本最大級のビジネスプロフェッショナルグループであるデロイト トーマツ グループに参画。現在、同グループの執行役員として、ブランド、マーケティング、Thought Leadership、広報、CSRなどの領域にまたがる統合的なコミュニケーション活動を企画・推進している。
出版社:
イースト・プレス
出版日:
2023/2/17

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