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「不確実性」超入門
田渕 直也
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専門家の推薦
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知識・教養
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こちらの書籍はアナリストの方が書いたものです。相場というのはランダムに動いていて、投資の場合、統計を間違った見方をしているケースが多々あります。一般的には正規分布がよく出現すると言われていますが、投資の世界では必ずしもそのようになっていないことがよくわかる1冊です。例えば100年に1度といわれるリーマンショックは実は正しい統計の取り方をすると15年に1度位起きているのです。この書籍は投資をはじめる人皆さんに読んで欲しい一冊ですが、特に理系の方であれば投資をしていなくても、この書籍を勉強してから、投資を始めると面白いと思います。- 栫井 駿介 -

【序章 コロナショックは予見できたのか】

コロナ以前より感染症の脅威は広く警戒されていた。

ではなぜ事前に予測ができたリスクに、我々は十分に備えることができなかったのか。

それは、予測には限界があるにも関わらず、我々はやや抽象的な予測に対し具体的な対処を行なうことがなかなかできないからである。

どんなに当初の予測が正確なものであったとしても、予想外の事態に対応していかなければならないという部分はどうしても残るのだ。

すなわち、完璧な予測を求めることも、予測に過度に依存することも、どちらも間違いなのだ。

不確実性の理解の第一歩は予測の限界を知り、予測不能な事態にいかに対応するかである。

【第1章 ランダム性】

景気動向や株価変動には不確実性が伴うため優れた経済学者であっても予測は当たらないと考えられる。

とはいえ、未来には予測可能な部分もある。

「日本の高齢化が今後一層進んでいく」といったような、現在までに進行している事象が未来にほぼ確実に影響を及ぼすためこうなるだろうという予測は可能である。

しかし、20年後の日本の高齢者比率が○○%である、という具合にピンポイントの予測はできない。こうしたピンポイントで予測ができないものこそが不確実性と呼ばれるものである。

未来というものはこうした予測可能と不確実な事象との合成として捉えることができる。

【未来の公式】

 未来 =すでに起きた未来(予測可能な未来)+不確実性(予測不可能な未来)

未来の公式が意味することにはいくつか重要な点がある。第一に、未来のデキゴトには多かれ少なかれ、不確実な要素が含まれる。第二に、事象の種類(人口動態なのか景気動向や株価変動なのか)によって、その不確実性 の影響の大きさは異なる。

景気動向や株価変動は不確実性の比重がかなり高い事象と考えることができる。

正しい意思決定をしていくためには不確実性を正しく理解しなくてはならない。だが、不確実性には誤ったイメージがつきまといがちである。

不確実性にはマイナスだけでなくプラスのイメージもある。予想外に悪いデキゴトが起きることもあるが、予想外に良いデキゴトが起きることもあるのだ。

ゆえに不確実性に対処するということは必ずしも不確実性を除去したりリスクを抑制したりすることと同一の意味にはならないことに注意する必要がある。

プラスとマイナスの両面がある以上、リスクを取らないリスクが必然的に生まれるのだ。

リスクは忌避すべきものではなく、どのようなリスクをどれだけ取るべきかを決定することこそが不確実な世界における意思決定なのである。

不確実性を論じるために解明すべきものに「ランダム性」がある。

ランダムとはまったくの偶然によってデキゴトの経過や結果が左右されること。

あらかじめいえることは確率だけであって、正確な結果を前もって予測することはできないということである。

株式市場では、誰も予期していなかったニュースが出るたびに、株価がランダムに揺れ動く。

しかし、「予想に反したニュースが良いものとなるか悪いものとなるか」そのものは、ランダムな挙動である。

ランダムな動きでは、原因があって結果が生まれるという因果関係は存在せず、ただ確率 だけがあって、その確率に従って結果が生まれる。

そしてランダムを理解するには厄介な確率を学ぶことが必要である。

確率の厄介なところは、実際に結果が出てしまうと、確率が意味を持たなくなってしまう ところにある。

サイコロを振る前は確率しかなく、振った後は結果しかない。だが結果を積み上げていくとそこには再び確率が現れる。この点が確率を理解する上で重要となる。

確率に従ってデキゴト(結果)が起きるというメカニズムは人の心理にはそのまま受け入れられないものなのである。

我々には予測のできないデキゴトにも正確に対処しようという気にさせてしまう感覚が備わっている。これが不確実性への対処を遅らせる大きな要因である。

不確実性に対処する原則は、100%はないと認識し1回1回の結果ではなく長い目でみたトータルの結果でその成否が判断されることである。

世の中はランダムに満ちている。

結果が重大なものであればあるほど、人はランダム性ではなく納得しやすい原因を探そうとし偶然のせいだと考えることを嫌う。

【第2章 フィードバック】

ランダム性では説明ができない不確実性がある、それが「フィードバック」である。

フィードバックとは、ある結果が生まれたときに、その結果が原因となって結果が再生産されるという自己循環的なプロセスのことである。

投資の世界での、売りが売りを呼び株価が大暴落するという状態などがこう呼ばれる。

フィードバックには自己抑制的なもの(負のフィードバック)と自己増幅的なもの(正のフィードバック)があり、前者は事態を均衡に戻そうとするが、後者はときに平均からかけ離れた極端なデキゴトを生み出す。

フィードバックが生む不確実性には、ランダム性に起因する不確実性とは異なり、部分的には予測可能性を秘めている。しかし断定的な予測にはなりえない。

個々のプロセス自体は予測可能なはずなのに、全体としてみれば予測が不可能という状況が生まれる。これがフィードバックが生む第二の不確実性である。

フィードバックのせめぎ合いから生まれる予測不能は、物理の世界では「カオス」として知られている。

カオスにはふたつの特徴があり、(1)原因と結果の大きさは結び付かない(2)結果を予測することができないという点がある。

そしてカオスを学んだ今、改めて「世界はランダムである以上に不確実」だと付け加えておこう。

【第3章 バブル】

本章では自己増幅的フィードバックの典型例であるバブルを紹介する。

バブルとは、主に株式や不動産などへの投資がブームとなり、それらの価格が不合理な水準にまで押し上げられることを指す。

泡という意味に反し、経済的な繁栄や画期的なイノベーションなど実態を伴った背景から生まれることが多い。

バブルはいつか必ず弾けるが、いつ弾けるかを予測することはできない。バブルが崩壊するときには、例外なく急激な逆回転の動きがみられ、株式市場などの暴落(クラッシュ)を招く。

バブルといった自己増幅的な動きの裏には人間の癖がみえる。それは将来を現在の延長線上に捉えがちだということだ。今起きていることは将来もそのまま続いていくと人はイメージする。予想外のデキゴトや、今起きていることと全く逆のデキゴトが起きるとは考えない。多くの投資家は、理由が何であっても、株価が下がったところで買うという行動をとれば利益が上がることを学んでいく。

しかしながら、なぜ後にならないと分からないのか。

それはバブルの発生そのものを予測することが極めて難しいからだ。同じ条件がそろっていても、バブルが起きることもあれば起きないこともある。渦中にいるときもバブルだと明確に分かるものではない。仮に今がバブルだと断定できたとしても、それがいつ終わるのかを予測することは難しい。

昨今ではグローバル化や技術進歩が、短期間での相場の急変動を引き起こしやすくさせていると考えられる事象が増えている。

フィードバック効果を踏まえたリスク感覚を身につけることが、今を生きる我々にとってますます重要なものになっているといえる。

【第4章 人間の心理バイアス】

本章では、不確実性に対する人の心理的な反応パターンについてみていく。

タイトルにある人の心理バイアスとは、「人の心理に関わる傾向的な癖」のことである。

人は、自身が合理的な人間だと思っていたとしても、時と場合によって自分でも知らないうちに不合理な行動や判断をしてしまう。

ここで重要な点は、心理バイアスの問題を取り上げる際に、人が判断を間違えることそのものが問題なのではない。

心理バイアスというものは人の進化の過程で培われたものであり、否定するのではなくそういうものなのだとありのままに受け入れるべきものなのである。

心理バイアスの関係を無視して不確実性への対処法を議論することはできない。

人が「バイアスに囚われている」という場合には、ただ単に個々の判断が間違っているのではなく、みなが同じ方向に間違えてしまうことを意味している。

そして、人間の心理バイアスの特徴を知ることで、人がどの方向に間違いやすいのかをあらかじめ知ることができるのだ。

人は物事を単純な因果関係で捉えたがるバイアスを持っている。

「うまくいったのは自分のおかげ、うまくいかなかったのは他人のせい」というように成功の要因を自分に求め、失敗を自分以外に求めたがる。

これを株式投資などにあてはめると、たまたま勝ちが続いたときに自分に才能があると感じ、損をしたときには運や市場のせいにしたりといった思考につながっていく。

だが、不確実性のもとでは、ランダム性やフィードバックによって成功や不成功がもたらされることがある。

この不確実性による成功に対して自分の貢献度を過大に評価してしまうと、失敗の連鎖に見舞われても自身のやり方を変えようと思わず、連鎖から抜けられなくなってしまう。

人はいったん何かを判断したり、行動したりすると、「そうしていなかった場合には決して抱くことがなかったはずの理屈」に囚われてしまう。

当事者でない場合には可能だった合理的思考も、自分が当事者になると途端に合理性、客観性を失ってしまう。

人が集団となった際に発生する「同調」についても注意が必要である。

傍目からはどうみても不自然な結論であるにもかかわらず集団の中ではある一定方向に流されて、だれも望まない結果が正しいものと結論付けられてしまうことがある。

バブルなど社会全体が不合理な方向に向かう現象の背景にもこの同調が大きく関係している。

予想外の突発的な状況に立たされたりして、心理的ゆとりや冷静さを失ったときには様々な心理バイアスが強く出るようになる。

人が不確実性にうまく対処ができないのはこうした心理バイアスの影響に加え、バブル崩壊などの事態が起きる可能性を過小評価していることが挙げられる。そして、不確実性の過小評価をする人間という生き物は、その裏返しから予測の力を過大評価する。

人は苦境に陥れば陥るほど精神論に頼る。そうならないためにも批判的な意見にも耳を傾け、多様な視点を確保する必要がある。

【第5章 不確実性のケーススタディ】

本章では予測できることとできないことについての違いをみる。

人々が不確実だといっているものの中には、実はそれほど不確実ではないものが大いにある。

そこには集団の知恵と呼ばれるものが存在する。

集団の知恵とは、不完全な情報しか持たず、あやふやな予想しかできない人が大勢集まって取引をすると、どういうわけか非常に正確な予測が浮かび上がってくるというものである。

「市場の予想」は、特定の誰かの予想ではなく集団の知恵そのものなのである。

集団の知恵は株式市場にも働いている。しかし他人の顔色をうかがうという投資家の行動パターンが株式市場における集団の知恵を非常に不安定なものとしてしまっている。

そしてそれがときに衆愚にまで至るとバブルや大暴落が発生する。

もうひとつの例としてコンピュータやAIと不確実性との関係がある。

現状ではAIが将来を予測することには長けていない。データの活用で分析の制度やスピードがアップするのはたしかだとしても、やはり大半のことは予測できないままである。不確実性がある限り今後も正確な予測を行なうAIは登場しないだろう。不確実性は我々の世界にとって本質的な要素だからである。

ただ、コンピュータやAIが不確実性に備える手段を提供することは可能である。可能であるが、画期的なイノベーションによる社会の変革は様々な副作用が伴い、そのほとんどは予想外のものなのである。結果、我々はますます不確実な時代へと向かっていくことになる。

【終章 人生を長期的成功へと導く思考法】

予測が当たらないことが問題なのではなく、予測できないことに予測することで対処しようという考え方がそもそも間違っていると考えるべきなのだ。

すべての予測は、不完全な仮説のひとつにすぎない。

ただ、「予測に頼ってはいけない」という言葉を、まだ起きていない大きな変化や危機について思いを巡らせることも不要なのだ、というふうには受け取らないでほしい。わずかな兆しが予想外の大きな動きにつながるかもしれないとさまざまなシナリオを思い描き続けることが大切なのであり、最初の予測にこだわってそのような作業を怠ることがあってはならない。

予想外のデキゴトが起きたときに、いかに冷静に、いかに柔軟に対処できるかということだ。

不確実性への対処を考えるときは時間軸を意識することが重要である。

不確実性のおかげで、短期的には間違ったやり方でも成功することがあり、正しいやり方でもうまくいかないことがある。

不確実性を前提にした思考法においては、勝率は犠牲にされ短期的な成果には結びつかないこともあるが長期的にみれば安定した良い成績を残せる可能性が高まる。

不確実性は不確実であるがゆえに完全に克服することなどできない。

何とかうまく付き合っていくしかないのだ。

それができたときに初めて、長期的な成功への道が開けるのである。

著者
田渕 直也
金融アナリスト、コンサルタント。株式会社ミリタス・フィナンシャル・コンサルティング代表取締役。シグマベイスキャピタル株式会社シニアフェロー、シグマインベストメントスクール学長。
出版社:
日本経済新聞出版
出版日:
2021/10/02

※Bibroの要約コンテンツは全て出版社の許諾を受けた上で掲載をしております。

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