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【お金の正体編】MONEY
チャールズ・ウィーラン
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経済社会
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知識・教養
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著者は、世界的ベストセラーとなった『Naked Economics(翻訳版:経済学をまる裸にする)』を書いたチャールズ・ウィーラン。

本書では「お金ってなに?」「インフレとデフレ」「物価」など身近なテーマと共に、近年の金融政策などにも振れながら、「お金のしくみ」について解説。

ここでは【お金の正体編】として、本書より一部内容を抜粋して紹介します。

お金ってなに?

すべてのお金は、理想的には3つの目的を果たすはずだ。

第一に、お金は会計単位だ。物の価値を評価するとき、人は具体的な通貨単位も続けて考える。たとえば初歩的な仕事の面接を受けたとしよう。会社によると、初任給は牛6頭とオレンジ11箱だという。これは高給といえるだろうか。一見しただけではわからない。見当をつけるために牛とオレンジをドルに換算してはじめて、この給料は意味を持つ。会計単位は―それがドルであっても、円でも、イルカの歯でも―万能翻訳機のようなものだ。

第二に、お金は価値貯蔵手段だ。いま支払いを受け入れて、その購買力を後で用いる方法をもたらす。ドルの支払いを受け入れる場合は、その価値はしばらく変わらないと合理的に確信できる。歴史を通じて、お金として使われてきた財は一般に、塩、タバコ、動物の皮など保存が利くもので、リンゴ、花、鮮魚などではなかった。―理由は明白だ。刑務所の散髪屋役が商売の場に新鮮なサバを積み上げていたら、財産の大部分は(おそらく顧客の大部分も)たちまち失われてしまう。

最後に、お金は交換手段だ。つまりそこそこ手軽に取引に使える。この点で、紙幣は明らかに使いやすい。100ドル札の束は財布にすんなりおさまり、合法だろうと、違法だろうと、アメリカでも、しばしばその他の地域でも、ほぼ何でも望みのものと交換できる。重要なのは、お金が価値ある存在になるために、必ずしも内在的価値は必要ないという点だ。交換を促進できればいい。

インフレとデフレ

ある経済における生産水準が一定なら、物価はマネーサプライに合わせて上下する―ここで重要な注意点が1つ。マネーサプライと物価の関係は、経済でお金が流通する速さ、つまりお金の「速度」に影響される。速度はマネーサプライと物価を結ぶ重要な繋がりなのだ。

個人や機関をお金にしがみつかせるものは、速度を落とす。たとえば経済の不確実性は、銀行、企業、消費者に現金(およびその他の流通動産)を抱え込ませる。将来、信用へのアクセスが悪くなることをおそれるからだ。一方、資産から現金への転換を容易にする金融イノベーションは、家計の非常時に備えてため込むお金を減らし、速度を上げる。

いったんインフレが生じると、それを抑えるのはむずかしくなりがちだ。理由は単純で、物価の上昇を予測する人々は、物価を上げるような行動をしてしまうからだ。

もし物価が来年10パーセント上がると予測するなら、来年の手取りが10パーセント多くなる雇用契約を要求する。そうしたら雇用主は、価格を10パーセント引き上げるだろう。それが続く。

インフレは悪いけれど、デフレはもっと悪い。ビールの値段が下がるのが物価水準の下落のせいなら、たぶんみんなの給料も下がる。所得の減少と物価の下落はかまわない―所得の増加と物価の上昇と似たようなものだ―でも1つ決定的にちがうことがある。借金は一般的に固定されるのだ。稼ぐお金は減り、家の価格は下がり、他の資産の価値は下落中―それでも毎月銀行に支払う額は変わらない。

実はこの場合、借金の実質価値は上昇している。支払うドルの価値が、借りたドルよりも高いからだ。これは金融大惨事のレシピだ。住宅ローンを返済できず財政難に陥る家計の数が増えると、貸した銀行も困ったことになり、健全な事業に融資する能力がなくなって、そうした事業の健全性もそこなわれる。みんな資産を売ってやりくりしようとする結果、資産の価値が下がってしまい、経済の大火は家計、事業、金融機関に広がってしまうのだ。

物価の科学:技芸、政治、心理学

インフレが好ましい人もいれば、デフレが好ましい人もいる。インフレを切望する人たちとは、債務者である。債務者は債務の実質価値を低下させてくれるインフレを好む。

一方、デフレは一定の名目所得で生計をたてている人(たとえば日本の年金生活者)にとって、物価の下落によって1円の価値を高めてくれる。1年に物価が10パーセント下がる場合、振り込まれる年金の実質価値は、年間10パーセント上昇している。デフレが予想外で、借り手がまだ借金を返済できる状態にあるとすると、貸しても恩恵をあずかる。返済される1ドル/円ごとの価値は、貸し付けられたドル/円の価値を上回る。

人の心理学はややこしい。人々は物価の変動に気づかないわけじゃない。無視したほうが楽なことが多いだけだ。この奇行が持つ意味はたいへん大きい。たとえば物価が安定しているとき、労働者は3パーセントの減給に抵抗するけれど、4パーセントのインフレにおける1パーセントの昇給は受け入れる(どちらの契約でも、労働者の待遇は実質値で3パーセント悪化する)。

この現象は、単なる興味深い心理的錯覚にはとどまらない。物価が安定しているときや下落しつつあるときに比べて、緩やかなインフレの場合、労働市場はもっと柔軟になりがちだ。同様に、消費者は大きな決断をするとき、名目値を手掛かりにする。住宅所有者は実質的な価値とは無関係に、購入金額より安く家を売り払うことに抵抗を持つだろう。逆に物価の上昇は、インフレを考慮すると損になる取引であっても、所有者に住まいを売却して「利益を得る」よう仕向けてしまう可能性がある。

流動性と支払い能力

流動性と支払い能力のちがい。危機においてはこれらの概念の区別が不可欠だ。

流動性は、ある資産を現金に換えられる容易さと確実性の指標だ。最も流動的な資産は現金である。大金を保有するには非実用的なドル紙幣を除くと、アメリカ財務省証券が最も流動性の高い資産だ。およそ5千億ドル相当の財務省証券が日々売買されている。

流動性は連続体で、一方の端には現金、他方の端には独特な資産、たとえば美術品などが存在する。レンブラントの絵画はどれも唯一無二の存在で、買い手候補の数は少ない。そんな売買の準備には時間がかかるし、このような作品の売却の手数料は高くなりがちだ。15分の間に代金を調達する必要がある場合は、財務省証券(国債)の売却が、実に有望な選択肢だ。

一方、支払い能力は黒か白かの概念だ。資産が負債を上回る場合には、支払い能力があるということになる。負債が資産を上回る場合は、支払い不能(破産、破綻)だ。すべての資産を即座に、容易に流動化できたとしても、それで手に入る収益は、すべての債権者に返済するには足りない。

だが問題なのは、いつもなら流動性のある資産が、危機においては流動的でないということだ。多くの人が同時に売ろうとするからだ。だれもが同じことをやろうと殺到したら、上手くいかないのは明白である。

危機になると、流動性不足は支払い不能に変わりかねない。

中央銀行の義務

中央銀行というのは、アメリカのFRB、カナダ銀行、欧州中央銀行など、マネーサプライを管理して金融システムの安全性を守るおもな責任を担う機関だ。アメリカの場合は、議会も金融政策を使った完全雇用の促進をFRBの責務としている。

中央銀行はこの世で最も重要な経済機関になっている。通貨の基盤になっている素材の紙のみの場合、安定した物価とジンバブエのようなハイパーインフレの間に立ちはだかるのは、責任ある中央銀行だけだ。

中央銀行を率いる人たちは、民主主義の基準からみれば驚くほどの絶対的権力を持っている。ベン・バーナンキは大恐慌を研究する学者としての経験から、当時の金融関連の過ちを繰り返さないように世界経済を導いて、金融危機を脱した。ジャネット・イエレンは2008年以降にとられた異例の措置をゆっくりと覆しながら、デフレの不安にも対処しなければならなかった。ヨーロッパでは欧州中央銀行の総裁、マリオ・ドラギが、スペイン、ポルトガル、イタリア、ギリシャといった国々に超国家的な単一通貨ユーロが課す重圧と戦う一方で、ユーロを安定させようとした。

これらの中央銀行当局者たちの成功/失敗の度合いが、世界経済の運命に影響する―雇用、破綻、財産、そして戦争と平和にも。

その一方で、あらゆる人々があらゆる(しばしば矛盾した)理由をつけて、中央銀行当局者たちを厳しく批判した。経済学研究者たちの間では、中央銀行が追求するべき基本的なこと(物価の安定と、着実な経済成長の促進)については広い同意が形成されている一方で、これらの目標をいかにうまく達成するかについては、あまり合意がみられない。

為替レートと世界金融システム

世界最大の経済のほとんどが利用している為替レートは、市場経済で決定されるほかのあらゆるものと同じように決まる:需要と供給によって。さまざまな通貨が、世界の外国為替市場で互いに取引される。

長期的にみると、特に非貿易財のコストにさほど差が見られない富裕国の間では、為替レートは購買力平価による予測値に近づいていくと予測される。短期的には、世界のさまざまな力が通貨の相対需要に影響を与える。

金利が高いと通貨の魅力は増す。カナダ国債の実質収益率が3パーセントで、アメリカ国債が3.5パーセントだった場合、カナダの投資家たちはアメリカで高収益を手に入れようとする。そのためにルーニーを売ってアメリカドルを買うと、アメリカドルはカナダドルに比べて増価する。力強い成長の機会も、世界の資本を引きつけて通貨を強くするし、経済の低迷や政治不安はその逆の効果を及ぼす。

政府と中央銀行は、いつでも自国通貨を売却して、需給に直接影響を与えられる。でも外国為替市場はあまりに大きく、ほとんどの国々は、市場を大きく動かせるほどの資金を持っていない。通貨介入は、たいていの場合、冷水をためた浴槽をスプーン一杯の熱湯で温めようとするようなものだ。

変動為替レートの一番の効用は、経済状況の影響に応じて通貨価値が変動できることである。政府は経済政策を実施して特定の為替レートを維持する責任を負わず、金利その他の政策ツールは、国内経済に最も合うやり方にまかせる。金本位制など、通貨を互いに固定する制度は、この点で政府にとっての選択肢の幅を狭めるのだ。

黄金

黄金は文明の始まり以来、文化を超えて人類を魅了してきた元素だ。黄金は蠱惑的で、こう密で、反応せず、腐食せず、実に可塑的なので比較的簡単に装飾品へと成形できる。あまり認識されていないことだけれども、黄金はなくならない。

ここで最も重要なのは、黄金は希少だという点だ。これまで生産されたすべての黄金を集めても、一隻のスーパータンカーに収まる。時代の中でお金が進化するにつれて、論理的な発展として金貨が生まれた。このぴかぴかした代物は社会がちがっても珍重されたので、貿易にも向いていた。その密度と希少性のため、小さな効果や延べ棒に大量の価値が詰め込めた。可塑性のため、硬貨の鋳造も可能になった。破壊できないので長持ちしたし、溶かして新しい硬貨や装飾品に変えることもできた。

現在、それがお金として使われる時代、支払いの手段や固定された会計単位として使われる時代は終わった。それでも、その魅力は消えておらず、一部の政治勢力は金本位制への復帰を呼びかけたりする。確かに、金本位制には重要な強みが二つある。

  1. ハイパーインフレを防止する。お金の量は黄金の量で制約されるからだ。
  2. 金本位制が各国で採用されれば、為替レートも予想可能な形で固定される。

残念ながら、金本位制の欠点はまさにこの同じ性質からまっすぐ出てくる。ケインズが指摘したように、黄金の供給はグローバル経済の成長率とまともに連動していない。つまり黄金がたくさん産出されれば物価は上がり、黄金の供給がその他経済の成長を下回れば物価は下がる。

固定為替レートの硬直性も欠点を持つ。各国が金本位制を通じてお互いに繋がっているときには、為替レート防衛のために国内の経済利益をひっくり返さなければならない。これが両大戦間でイギリスの失墜につながった。他の国が同じ間違いをして、大恐慌を拡大深化させるにつれて、これが世界的な問題になる。

お金の未来

世界経済は本質的に激変しかねない。その原因は、天災、技術変化、戦争、金融パニックなど人や自然がもたらせるありとあらゆるものになる。これを管理する実績あるツールは、借りたお金の価格-つまりは金利-を下げたり上げたりすることだ。

人々の取引方法は進化する―でも安定した会計単位のニーズは変わらない。貸し借りの性質は変わる―でも金融パニックの性質は不変だし、それに対する保護の必要性も同じだ。経済は進化する―でも経済変動は相変わらず続くし、世界経済がますます相互接続されれば、変動はもっと大きく不安定なものになりかねない。

こうしたものすべてを管理する責任を負う機関が中央銀行だ。人々は、グーグルグラスだの自動運転車だので大騒ぎするけれど、イノベーションという点で見れば、21世紀に成長と安定を促進するためにできる最も重要なことの1つは、中央銀行業務のやり方をますます高度化することなのだ。

中央銀行業務の改善

中央銀行業は、医療や製造業と同じく、過去の経験が現在の慣行に組み込まれるにつれて、着実に改善されるものであるはずだ。アメリカが金融危機を脱し、FRBが制度機関として2世紀目に突入するいまこそ、ふりかえり、あたりを見回し、先を見る好機だろう。危機を通じて中央銀行業について何を学んだんだろうか、そしてもっと重要なこととして、そうした教訓を使って次の危機やパニックにどう備えればいいだろうか?というのも、次は必ず来るからだ。中央銀行業務をどう改善できるのだろうか?

金融危機は主流の経済学界を震撼させた。多くのモデルが投げ捨てられたのに、それらに代わるものがない。過去の十年でいくつか学んだことはあるし、過去の信念が強化された部分もあるけれど、まだはっきりと答えられていない疑問も提起された。中央銀行業務をもっとうまくやる―マクロ経済的、金融的な安定性を実現する―のが狙いなら、専門家たちが格闘し続けている問題はいくつもある。

しかし、問題がいろいろあるからといって、世界の中央銀行家たちが、多くの重要な経済学的思考に支えられて達成してきた業績を否定してはいけない。確かに、金融危機はもっと謙虚さを求めるものだ。でもその一方で、その結果は大恐慌やそれ以前の多くのパニックよりは目に見えてましだった。私たちは着実に腕を上げつつあるのだ。

著者
チャールズ・ウィーラン
ダートマス大学で公共政策と経済学を教える。著書に全米ベストセラーとなったNaked Economics(『経済学をまる裸にする』日本経済新聞出版社)とNaked Statistics(『統計学をまる裸にする』日本経済新聞出版社)がある。
出版社:
東洋館出版社
出版日:
2017/12/18

※Bibroの要約コンテンツは全て出版社の許諾を受けた上で掲載をしております。

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