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タートル流投資の魔術
カーティス・フェイス
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1980年初頭、伝説のトレーダーであるリチャード・デニスが率いたトレーダー集団「タートルズ」。著者は、当時19歳の最年少で研修に参加し、わずか2週間の研修を受けた後、任された口座100万ドルの3倍近くを稼ぐ成果を挙げました。

トレーディングシステムやソフトウェアの開発分野でも第一人者となった著者が、門外不出と言われたタートル流投資術を解説したのが本書です。

ここでは本書より一部内容を抜粋して紹介します。

序章 ピットのプリンスに拝謁した日

わたしは、19歳の時、伝説のトレーダーであるリチャード・デニスが主催するトレーダー養成講座の研修生に応募した。リチャード・デニスは、パートナーのウィリアム・ロックハートと、勝てるトレーダーは資質か教育か、という賭けを実行する為、直々にトレーディング手法を伝授する研修生を募集していたのだ。研修生たちは、後に「タートル」という名前で知られるようになり、4年半を超えるプログラム期間中に年平均80パーセント以上のリターンを稼いだ。

わたしはトレーダーについては全くの初心者で、プログラミングやシステム分析を得意としていた。リチャード達は、わたしの経歴や考え方に興味を示し、最年少のわたしを採用した。わたしは実習で素晴らしい成績を収め、タートルの中で最高額の口座を任されるようになった。

本書では、投資の一般的な仕組みから、リチャード達が伝授したタートル流トレーディング法について説明していく。

リスク中毒

トレーダーと投資家は違う。投資家は現物を買うが、トレーダーは現物ではなくリスクを売買する。

原料や為替などの価格変動が生むリスクを、先物契約を売買することによって相殺する手法をヘッジと言う。そのヘッジの為の先物を売買するのがトレーダーである。

トレーダーが取り扱うのは流動性リスクと価格リスクの2つである。流動性リスクとは、売りたい時に買い手が、買いたい時に売り手が、いないリスクである。市場では買い呼び値のことをビッド、売り呼び値のことをアスクと呼ぶが、このビッドとアスクの価格差が値鞘(スプレッド)であり、その値鞘を使って稼ぐトレーダーを鞘取り人(スカルパ―)と呼ぶ。

一方、価格リスクとは、価格が大きく変動する可能性のことである。価格リスクを引き受けるトレーダーのことを投機家(スペキュレーター)と呼ぶ。

市場は相互に売買するトレーダー集団から成っている。値動きは、市場の売り手と買い手が集団としてその市場をどう見ているかを示す関数である。熟練トレーダーは、その市場の動きを見極め、価格が上がりそうな時には他のトレーダーたちよりも早く売り持ちを手じまいして買い越している。

タートルの心をなだめる

市場は人で構成されているから、一番のこつは人の心を読むことだ。行動ファイナンスの研究により、人は不確実な状況では体型的にあやまちを犯すことが分かっている。

タートル流トレーディング法は、人間の感情と不合理な思考によって市場が繰り返す一定のパターンを見極める。すべての人間が心に持ち、それゆえに繰り返し発現する体型的な不合理のことを認知のゆがみと言い、以下のようなものがある。

「損失回避」

利益を得るより損失を避けることを優先しようとする傾向で、100ドル儲けられないことよりも100ドル損することを避けようとする。

「埋没費用効果」

これから支払うことになる費用より、すでに支払ったか、支払うことが決まっている費用のほうを重視する傾向。

「処理効果」

利益は早く確定し、損失はできるだけ長くしのごうとする傾向。

「結果偏向」

ある決断の良し悪しを判定するのに、どんな時点でどんな決断を下したかではなく、決断がもたらした結果から判定しようとする傾向。

「直近偏向」

過去のデータや経験より、最近のデータや経験に重きを置く傾向。

「係留(アンカリング)」

簡単に手に入る情報に頼りすぎる傾向。

「バンドワゴン効果」

あるものごとを、大勢が受け入れているという理由で受け入れる傾向。

「小数の法則信仰」

少なすぎる情報から、不適切な結論を導き出す傾向。

トレーダーが認知のゆがみに惑わされ無ければ、ほぼすべてのゆがみが、金儲けのチャンスに繋がる。

いちばんきついのは、最初の200万ドルだ

タートル養成講座で、トレーダーたちは勘ではなく、コンピューターによる分析に頼るよう教え込まれる。そして、ゲーム理論と確率論の基本、資金管理、ギャンブル理論で広く知られている破産や期待値の理論を叩きこまれた。破産の確率で一番重要なのは、儲け金の額を大きくすると、破産の確率は急に増大することだ。その為のリスクコントロールとして、資金管理が必要になる。

タートルの資金管理法は、持ち高を複数の小さな単位(ユニット)に分けてリスクを分散することと、各商品の値動きが金額ベースでほぼ同額になるように取引単位(ポジション・サイズ)を調整することの2つである。後者には、ATR(真の値幅の移動平均)の手法が取られるが、これは1983年当時は革新的な手法だった。

タートル流トレーディング法の最も重要な要素は、タートルたちが取引に際して長い目で見て考えるよう訓練されていることだ。これが、エッジ(優位性)のあるシステムを確立する。

また、タートル流トレーディングでは、結果ではなく期待値で判断する。期待値とは「このゲームを続けたら、この先どうなるだろう」という問いに数値で応えるものだ。期待値により結果偏向を避けることができる。タートルたちは、正の期待値を持てば、長期的に必ず成功すると信じていた。だから、必ず巡ってくる負け基調の時期でも、自分なりの手法で取引を続けられたのだ。

私たちが養成講座で教わった手法自体は、シンプルなトレンドフォロー手法だった。何よりも首尾一貫することと、トレンドをつかみ損ねないことが重要だと教わった。しかし、実習が始まると、新米トレーダーたちは実際の市場の動きを前に、あっさりとそれを忘れてしまった。わたしは教わった通りの手法を貫き、他のタートルたちのほぼ3倍の額を稼いだ。

タートルのように考える

トレーダーの適性とはタートル流で言えば、「現在形で取引すること」「予測しようせず、確率で考えること」「取引には自分で責任を取ること」である。

勝つトレーダーは現在のことだけ考え、未来を予測しようとはしない。市場のトレンドは必ず生まれ、人間の感情と認知のしかたが変わらない限り、値動きの特徴も変わらない、ということを踏まえて、トレンドを見極める。

過去にとらわれないことも必要だ。タートルでは、過去を全体的にとらえ、最近の出来事だけを特に重視することはしない。直近偏向を避ける能力を持つことが、トレーディングで成功する秘訣である。

そして、未来を予測するのではなく、確率で考えることも重要だ。例えば、トレードとR倍数(各トレードの利益をリスク額で割った値)を柱状グラフに表してみる。すると負けトレードの数が勝ちトレードの数を大きく上回る。これはトレンドフォロー・システムにはよくあることで、負けトレードの数は多いが、参入リスクは最低限に抑えられている。一方、勝ちトレードは参入リスクの何倍もの利益を出している。

どのトレードが最終的に勝ちトレードになるかは分からない。分かっているのは、グラフの分布、確率だけだ。タートルは、十中八九このトレードは負けになると思いながらトレードする。それでも、数少ない勝ちトレードが、最終的に負けトレードの損失を補ってあまりある利益を生む確率が高いことを確信している。だからこそ、負けが続いても首尾一貫したトレードを続けることができる。

エッジのある取引をする

重要なのはエッジ(優位性)のある取引をすることだ。取引でのエッジは、この先も繰り返し起こると見られる市場動向に基づいた、利用可能な統計上の強みのこと。特に、認知のゆがみが市場動向を引き起こした時には最高のエッジが生まれる。

エッジを最大化するには、参入ポイントと退出ポイントが重要になる。参入ポイントを決めるアルゴリズムを参入シグナル、退出ポイントを決めるアルゴリズムを退出シグナルと言う。

参入シグナルのエッジを計測するには、悪い方向への最大の値動きである最大逆行幅(MAE)と良い方向への最大の値動きである最大順行幅(MFE)を使う。平均MFEが平均MAEを上回る値動きが起これば、参入シグナルに正のエッジが存在することを示している。これを市場間での比較ができるよう平均化して、時間枠をあてはめた独自の参入エッジ測定法がE比率(優位比率)である。

退出シグナルは、参入シグナルほど簡単ではない。退出は参入と退出両方のシグナルに影響されるからだ。退出のエッジを気にするよりも、むしろ退出がシステム全体のパフォーマンスに及ぼす影響の方を気にするべきだ。退出後に起こったことについては、取引の結果には直接関係が無いのだから。

エッジから転落する

取引上のエッジは、認知のゆがみが現実と市場認識を乖離させることで生まれる。支持線と抵抗線とは、価格が過去の価格レベルに引っ張られて一定幅にとどまる傾向であり、係留、直近偏向、処理効果などの認知のゆがみから生まれる。支持線と抵抗線を信じるトレーダーたちの市場行動そのものが、その現象を強化するのである。

また、処理効果が作用すると、トレーダーは勝ちトレードを増やすよりも、利益を確定したがる。その為、例えば価格が下がった後で直近の高値水準にまで戻ってきた場合、それが高値だと思って売りに転ずるトレーダーが増える。結果として、その直近の高値水準が抵抗線になってしまうのである。

カウンタートレンド戦略のトレーダーにとっては、支持線、抵抗線はエッジの源だ。トレンドフォロー派にとってエッジの源は、支持線と抵抗線が突破されたときのトレーダーたちの認知のゆがみである。支持線や抵抗線が突破されても、トレーダーは以前の考えに固執しており、しかも市場の動きはそこまで速く反応しない。よって、支持線や抵抗線が突き抜けた時は、それまでと同方向に市場の動きが強まる、という傾向がある。支持線と抵抗線の価格ラインは、絶好の取引チャンスであり、間違っていてもコストは低くすむ。誤解のあるところに、売り手と買い手の闘いが生まれ、トレーダーがエッジを見つけるチャンスが生まれる。

リスクを測る

トレーディング戦略で最も重要なのは、最高のリスク・リターン比率を持つ戦略を見つけることである。しかし、そのリスク・リターンの評価方法や尺度が難しい。トレーダーが気にかけるべき主要なリスクは、以下の4つである。

「ドローダウン」

トレーダーの取引口座の元金を減少させる一連の損失である。経験の浅いトレーダーは、リターンをある程度小さくしてでも、ドローダウンを軽減できるようにすべきだ。

「ローリターン」

ひどい低利得期間が続くリスクである。ほかの条件が同じなら、統計的にはコンスタントにリターンを生むシステムの方が、将来的にもより良いリターンを生む可能性が高い。

「価格ショック」

自然災害や経済的大惨事などによって起こる、突然あるいは急激な価格変動である。わたしがトレーディングを始めてから現在に至るまで、大きな二つの価格ショックがあった。1987年のブラックマンデーと2001年のニューヨーク世界貿易センタービルへのテロ攻撃後の暴落だ。

1987年10月19日、わたしは少しばかり儲けを出したにも関わらず、翌日にはリチャード・デニスの2000万ドルの運用額を1100万ドルまで減らしていた。ドローダウンは、一夜のうちに65パーセントまで突出し、市場を退出するチャンスは全く無かった。

「システムの無用化」

市場力学の変化で、以前は利益の出ていたシステムが損失を出し始めることである。システムの無用化は、貧弱なテスト方法が原因であることが多いが、市場の変化が速いせいで、以前にはうまく機能していたシステムが上手くいかなくなることもある。

リスクの定量化で有用な尺度は「最大のドローダウン」「最長のドローダウン」「リターンの標準偏差」「決定係数」。

リターンの算出法で有用な尺度は、「CAGR(%)」、「平均年間トレイリング・リターン」「平均月間リターン」である。

リスク対リターンを測定するためには「シャープ・レシオ」と「MARレシオ」がある。

シャープ・レシオは、ミューチュアル・ファンドのような株式投資ファンドのリスク・リターン比率を測るのには優れているが、先物や商品ヘッジファンドのような代替投資ファンドには充分な尺度とは言えない。

MARレシオは、1年のリターンを月末の数値を用いた最大のドローダウンで割って算出する。これは、リスク対リターンを測る手っとり早い方法で、おおまかなところを知るには大変重宝する。

いずれにせよ、ある特定の戦略に人気が集中すると、必然的にスプレッドは縮まってしまう。損失への許容度やリターンへの期待度は人それぞれなので、普遍的な尺度は存在しない。複数の尺度を組み合わせて目を配りつつ、どんな特定の数値にもとらわれすぎないことが重要である。

リスクと資金管理

トレーダーにとって致命的なのは破産リスクである。資金管理は、破産リスクを容認できるレベルにとどめながら、潜在的な利益を最大化する方法であり、適切なトレードサイズの選択やポジション総サイズの制限により、価格ショックへのエクスポージャーを管理することだ。

複利の効果はとても強いので、年20〜30パーセントの安定したリターンが得られれば、数年後には元手は大きく膨れ上がる。しかし、資金を全て失ってしまえば一からやり直すしかない。トレーディングを始めて最初の数年は、攻撃的なリターンを目指さずに保守的アプローチを取るべきだ。

破産リスクに関して言えば、多くのトレーダーが、マーケットの動向や不遇さからではなく、計画性のなさや過剰なリスク、非現実的な期待によって、破産に至る。タートル流の資金管理の肝は、ゲームに生き残ること、である。

タートル流では、どの市場やトレードが有望か、などといった予測はしない。各市場におけるポジションを、上下動の幅の金額がほぼ同額になるように管理する。これによって、大きなドローダウンや価格ショック時のエクスポージャーと総リスクを制限することができる。1987年のブラックマンデーの際にも、この仕組みでおそらく1億ドル以上の損失が守られた。

標準的リスクを見定めるのに最良の方法は、ここ30年から50年の間に発生したおもな価格ショックを調べ、どの程度のリスクが大きなドローダウンに繋がるのか、当時自分ならどんなポジションを取ったか、などをシミュレーションすることだ。さらに、もっとひどい事態になった時にどうなるかも考える。攻撃的なトレーディングを行なっていると、破産リスクは高まってしまう。

トレンド・フォローシステム

トレンドがいつ始まり、いつ終わるかについての指標としては、「ブレイクアウト」「移動平均」「変動性チャネル」「時限退出」「過去との比較」がある。

「ブレイクアウト」のための最高値または最安値を算出するのに使われる日数によって、来るべきトレンドのタイプが決まる。ブレイクアウトは、例えば移動平均のような全般的トレンドを示す他の指標と組み合わせて使うと、より効果が出る。

「移動平均」は、特定の日数のあいだの平均価格を毎日更新した数値だ。日数が短い移動平均ほど価格に近い動きを見せる。例えば、20日移動平均が70日移動平均を下からクロスして抜けていけば、20日移動平均の方向にトレンドが動いていくのが分かる。

「変動性チャネル」はトレンドの始まりを示すのによい指標だ。移動平均に変動制チャネルを加えることによって、価格がチャネルからはみ出して変動していくトレンドを掴むことができる。

「時限退出」が発生すると、その後で移動平均やブレイクアウトによってドローダウンが明らかになる場合が非常に多い。

「過去との比較」は、トレンドフォローの最も基礎的な手法だ。ATRなどの変動性にもとづく値を用いて比較してみるのも良いだろう。

完璧な指標を探すことに時間を費やすよりも、基本的で単純なシステムで、実際にトレンドフォローのトレードをやってみることである。

バックテストの罠

6種類の長期トレンドフォロー・システムを、この10年間それぞれでどれほどの利益を出したかを、バックテスト(過去のデータに基づいてシミュレーションすること)して比較した。バックテストの効果に懐疑的な人もいるが、過去の経験とデータから学ぶ以上に最善の方法は無い。

バックテストの期間を変更してみると、CAGRやドローダウンの数値は劇的に変化する。ここに、バックテストと現実の取引との間に差異が生じる原因が隠されている。それは、主に以下の4つである。

「トレーダー効果」

ある手法が最近莫大な利益を挙げたと言う事実によって、ほかのトレーダーたちがそれに気づいて類似の着想を利用し始め、結果として、その手法が当初ほどうまく働かなくなること。例えば、あるトレーダーがブレイクアウト戦略によって大儲けをしたことを知った別のトレーダーは、先に買い注文を出して大口の買いを誘発し、価格を引き上げて売り抜くことで利益をあげようとする。結果として、ブレイクアウトの意味やレベルが変わってしまうのだ。

「ランダム効果」

完全にランダムな要因で、バックテストが本来の優位性以上に良好なパフォーマンスを示すケース。取引結果は、実はランダムな出来事に大きく左右される。コンピューターでシミュレーションすると、完全にランダムな出来事で、取引の結果は利益16.9%から損失20%へと大きく変化する。つまり、過去に上手くいったトレード戦略はたまたま上手くいったのであって、未来もそうであるとは限らない。

「最適化のパラドックス」

シミュレーションに使うパラメーターを最適化することによって、システムの将来的なパフォーマンスは上がるのに、そのシミュレーション法の予測精度は低くなってしまう現象。しかし、このパラドックスが起こるリスクを踏まえた上で、パラメーターを選定し、最適化をした方が良い。

「オーバーフィッティング、あるいはカーブフィッティング」

システムが複雑過ぎて、予測価値が失われてしまう現象。過去のデータに過剰にフィットすることで、実際に市場の動きやパラメーターが微細に変化しただけで、パフォーマンスが大きく変わってしまうことになる。

地に足をつけて

前述の問題を踏まえて、適切なバックテストを行なうにはどうしたら良いか。

まず重要なのは、テストのための統計的基礎を押さえることだ。統計学で言えば、母集団のサンプルから引き出した推測の妥当性には、サンプルのサイズと、サンプルが母集団全体を代表しているか、が大きく影響する。短期のデータでテストを行うと、その過去のデータのサンプルが将来を代表している可能性は低くなる。

もう一つ重要なことは、既存のパフォーマンスを測る尺度は不安定で、データのごく一部に対して敏感過ぎることだ。わたしは、これをパフォーマンス尺度が堅固ではない、と言っている。

例えば、MARレシオとCAGR%とシャープ・レシオは、テストの開始日や終了日に敏感過ぎて堅固な尺度とは言えない。そこで、わたしはリターンについてはMARレシオの直線回帰線を利用した「回帰年間利益率(RAR)」という尺度を、リスクについては平均最大ドローダウンと期間調整を加えた新しい尺度を採用し、より堅固なリスク/リターンの尺度「Rーキューブド」を考案した。堅固な尺度にすれば、オーバーフィッティングを避け、将来のパフォーマンスを適切に予測できる。

また、充分なサンプルサイズを確保する為に、単一市場での最適化を行なわないようにすること、パラメーターの組み換えやローリング最適化ウィンドウの演習などにより、将来の予想値の変動範囲とそれが影響する要因について理解しておくことが重要だ。

さらに、モンテカルロ法と言う数学手法を使って、トレードや損益曲線を組み替えた「もう一つの現実世界」をシミュレーションする。これにより、バックテストとは別の、複数の可能性を知ることができる。いずれにせよ、バックテストは完璧なものではなく、将来の大まかな推測に過ぎないことは理解しておく必要がある。

隙のないシステム

トレーダーとして経験を積んでいくと、完璧な隙のないシステムなど存在しないことに気づく。堅固なトレーディング・プログラムとは、将来の予見不可能性を織り込んで特定の市況に頼らないプログラムだが、一体どうやって構築できるだろうか。

その答えは、生態系における「多様性」と「単純さ」に隠されている。生態系では、環境が安定している時は、複雑な種の方が有利だが、変化の時期に強いのは、ウイルスやバクテリアなど単純な生物の方だ。堅固なトレーディング・システムとは、単純さを保ちながら、市場の変化に適応できる多様性を持っていることだ。単純な規則に基づいたシステムの方が、多種多様な環境下ではうまく働くことができる。

さらに、トレーディング全体の堅固さを強化する為に、市場を分散することも効果的だ。お互いに相関していないできるだけ多くの市場を含むポートフォリオを持つことで、トレーディングの多様性を深めることができる。ただし、流動性の低い市場は避けた方がいい。市場の分散に加えて、システムを分散することも堅固なトレーディングの確立に有効な手段だ。できればシステム間の違いが大きい複数のシステムを同時に使うことで、パフォーマンスが上昇する。

トレーダーは市況を予測することはできないのだから、どんな市況にも適応できる多様性を持ち、かつシンプルで特定の市況に依存していないシステムを構築することが重要だ。

心の悪魔を手なずけろ

リチャード・デニスが教えてくれたトレーディング法は特に目新しいものではない、シンプルな基本原則に沿ったものだ。しかし、人間は複雑な着想の方が単純な着想よりも優れていると信じたがり、うまくいくことの裏には何か特別な秘密が隠されているに違いない、と思ってしまう。

わたしたちの自我は、特別であることを求めてしまう。だからこそ、新米トレーダーは裁量トレードに引き寄せられるのだ。裁量トレードは個人の判断に頼る取引だから、自我を満足させるのにうってつけだ。しかし、トレーダーとしての自我はトレーダーのいい友人にはなれない。自我は正しくありたがり、予測したがり、特別な秘密を知りたがる。そして、そのために認知のゆがみを避けられず、ルール通り取引することができなくなってしまう。

トレーダーは常に謙虚で、小賢しい真似をしてはいけない。トレーディングを成功させるには、一貫性を持たなければならない。人生で最も重要な教訓は、シンプルだが実践するのは難しい。

著者
カーティス・フェイス
エリート投資集団「タートルズ」の最優等生。19歳の最年少で選抜され、師リチャード・デニスから託された口座で3000万ドルを超える利益をあげた。メカニカル・トレーディングのシステム及びソフトウェアの先駆者。現在は、トレーディング・システムの分析と開発用ソフトウェアを専門とするトレーディング・ブロックス(合同会社)で研究開発の責任者を務めている。またメカニカル・システム・トレーダーのためのインターネット・フォーラムを主宰している。
出版社:
徳間書店
出版日:
2007/10/17

※Bibroの要約コンテンツは全て出版社の許諾を受けた上で掲載をしております。

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