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孫子
金谷 治
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知識・教養
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いわゆる「孫子の兵法」の原典。軍事理論書であり戦争時における戦い方を論じているが、人間の心理を巧みに突くなど、ビジネスや人生そのものの指南書にもなります。ビル・ゲイツや孫正義といったビジネスマンの愛読書でもあるのです。とりわけ「情報」に関する扱い方は投資に欠かせない情報戦の参考になるでしょう。投資のノウハウではないけれど、知見を高めることで投資にも大いに役立つ一冊です。投資家はもちろん、ビジネスマンにもお勧めできると思います。- 安恒 理 -

作戦篇

戦争には、まずくともすばやく切りあげるというのはあるが、うまくて長びくという例はまだ無い。そもそも戦争が長びいて国家に利益があるというのは、あったためしがないのだ。だから、戦争の損害を十分知りつくしていない者には、戦争の利益も十分知りつくすことはできないのである。

戦争の上手な人は、兵役は二度とくりかえしては徴発せず、食糧は三度と国からは運ばず、軍需品は自分の国のを使うけれども、食糧は敵地のものに依存する。だから、兵糧は十分なのである。智将は遠征したら、できるだけ敵の兵糧を奪って食べるようにする。

敵の物資を奪い取るのは実際の利益のためである。だから、車戦で車十台以上を捕獲したときには、敵の旗じるしを身方のものにとりかえたうえ、獲得した車は身方のものにたちまじって乗用させ、降参した兵卒は優遇して養わせる。これが敵に勝って強さを増すということである。

戦争は勝利を第一とするが、長びくのはよくない。戦争の利害をわきまえた将軍は、人民の生死の運命を握るものであり、国家の安危を決する主宰者である。

謀攻篇

戦争の原則としては、敵国を傷つけずにそのままで降服させるのが上策で、敵国を討ち破って屈服させるのはそれには劣る。戦闘しないで敵兵を屈服させるのが、最高にすぐれたことである。

最上の戦争は敵の陰謀を破ることであり、その次ぎは敵と連合国との外交関係を破ることであり、その次ぎは敵の軍を討つことであり、最もまずいのは敵の城を攻めることである。無傷のままで獲得する方法で天下の勝利を争うのであって、それゆえ軍も疲弊しないで完全な利益が得られるのである。

将軍とは国家の助け役である。助け役が主君と親密であれば国家は必ず強くなるが、助け役が主君とすきがあるのでは国家は必ず弱くなる。軍隊が迷って疑うことになれば、外国の諸侯たちが兵を挙げて攻めこんで来る。軍隊を乱して自分から勝利をとり去るというのである。

勝利を知るためには五つのことがある。第一には戦ってよいときと戦ってはいけないときとをわきまえていれば勝つ。第二には大軍と小勢とのそれぞれの用い方を知っておれば勝つ。第三には上下の人々が心を合わせていれば勝つ。第四にはよく準備を整えて油断している敵に当たれば勝つ。第五には将軍が有能で主君がそれに干渉しなければ勝つ。これら五つのことが勝利を知るための方法である。

形篇

昔の戦いに巧みであった人は、まず身方を固めて、だれにもうち勝つことのできない態勢を整えたうえで、敵が弱点をあらわして、だれでもがうち勝てるような態勢になるのを待った。だれにもうち勝てない態勢とは守備にかかわることである。だれでもがうち勝てる態勢とは攻撃にかかわることである。身方を安全にしてしかも完全な勝利をとげることができるのである。

戦いに巧みな人は、身方を絶対に負けない不敗の立場において敵の態勢がくずれて、負けるようになった機会を逃さないのである。勝利の軍は開戦前にまず勝利を得てそれから戦争しようとするが、敗軍はまず戦争を始めてからあとで勝利を求めるものである。

戦争の上手な人は、人心を統一させるような政治を立派に行ない、さらに、軍制をよく守る。だから勝敗を自由に決することができるのである。

虚実篇

およそ戦争に際して、先きに戦場にいて敵の来るのを待つ軍隊は楽であるが、後から戦場について戦闘にはせつける軍隊は骨がおれる。これが実と虚である。だから、戦いに巧みな人は、あいてを思いのままにして、あいての思いどおりにされることがない。

こちらで進撃したばあいに敵の方でそれを防ぎ止めることのできないのは、敵のすきをついた進撃だからである。後退したばあいに敵の方でそれを追うことのできないのは、すばやくて追いつけない後退だからである。

敵にははっきりした態勢をとらせて(虚)、こちらでは態勢を隠して無形だ(実)というのであれば、敵の態勢に応じて集中するが、敵は疑心暗鬼で分散する。こちらは集中して一団になり敵は分散して十隊になるというのであれば、その結果はこちらの十人で敵の一人を攻めることになる。だから、勝利は思いのままに得られるというのである。敵はたとい大勢でも、虚実のはたらきでそれを分散させて戦えないようにしてしまうのだ。

戦いの前に敵の虚実を知るためには、敵情を目算してみて利害損得の見積りを知り、敵軍を刺戟して動かせてみてその行動の規準を知り、敵軍のはっきりした態勢を把握してその敗死すべき地勢と敗れない地勢とを知り、敵軍と小ぜりあいをしてみて優勢な所と手薄な所とを知るのである。

軍の形(態勢)をとる極致は無形になることである。無形であれば深く入りこんだスパイでもかぎつけることができず、智謀すぐれた者でも考え慮ることができない。戦ってうち勝つありさまには二度とはくりかえしが無く、あいての態勢しだいに対応して窮まりがないのである。

軍にはきまった勢いというものがなく、またきまった形というものもない。うまく敵情のままに従って変化して勝利をかちとることのできるのが、はかり知れない神妙というものである。

軍争篇

戦争の原則としては、将軍が主君の命令を受けてから、軍隊を統合し兵士を集めて敵と対陣して止まるまでの間で、軍争ほどむつかしいものはない。軍争のむつかしいのは、廻り遠い道をまっ直ぐの近道にし、害のあることを利益に転ずることである。

諸侯たちの腹のうちが分からないのでは、前もって同盟することはできず、山林や険しい地形や沼沢地などの地形が分からないのでは、軍隊を進めることはできず、その土地に詳しい案内役を使えないのでは、地形の利益を収めることはできない。

戦争は敵の裏をかくことを中心とし、利のあるところに従って行動し、分散や集合で変化の形をとっていくものである。あいてに先きんじて遠近の計遠い道を近道に転ずるはかりごとを知るものが勝つのであって、これが軍争の原則である。

戦争の上手な人は、あいての鋭い気力を避けて衰えてしぼんだところを撃つ。それが敵の軍隊の気力を奪い取ってうち勝つというものである。また治まり整った状態で混乱したあいてに当たり、冷静な状態であいてに当たる。それが敵の将軍の心を奪い取って心についてうち勝つというものである。また戦場の近くに居て遠くからやって来るのを待ちうけ、疲労したあいてに当たり、腹いっぱいでいて飢えたあいてに当たる。それが戦力についてうち勝つというものである。また堂々と充実した陣だてには攻撃をかけない。それが敵の変化を待ってその変化についてうち勝つというものである。

九変篇

戦争の原則としては、高い陵にいる敵を攻めてはならず、丘を背にして攻めてくる敵は迎え撃ってはならず、嶮しい地勢にいる敵には長く対してはならず、偽わりの誘いの退却は追いかけてはならず、鋭い気勢の敵兵には攻めかけてはならず、こちらを釣りにくるの兵士には食いついてはならず、母国に帰る敵軍はひき止めてはならず、包囲した敵軍には必ず逃げ口をあけておき、進退きわまった敵をあまり追いつめてはならない。以上常法とは違ったこの九とおりの処置をとることが戦争の原則である。

九とおりの処置の利益によく精通した将軍こそは、軍隊の用い方をわきまえたものである。

地形篇

土地の形状には、通じ開けたのがあり、障害のあるのがあり、こまかい枝道に分かれたのがあり、せまいのがあり、けわしいのがあり、遠いのがある。すべてこれら六つのことは、土地の形についての道理である。将軍の最も重大な責務として十分に考えなければならないことである。

軍隊には、逃亡するのがあり、ゆるむのがあり、落ちこむのがあり、崩れるのがあり、乱れるのがあり、負けて逃げるのがある。すべてこれら六つのことは、自然の災害ではなくて、将軍たる者の過失によるのである。将軍の最も重大な責務として十分に考えなければならないことである。

土地のありさまというものは、戦争のための補助である。敵情をはかり考えて勝算をたて、土地がけわしいか平坦か遠いか近いかを検討してそれに応じた作戦をするのが、総大将の仕事である。こういうことをわきまえて戦いをする者は必ず勝つが、こういうことをわきまえないで戦いをする者は必ず負ける。

戦争のことに通じた人は、敵のことも、身方のことも、土地のありさまも、よく分かったうえで行動を起こすから、軍を動かして迷いがなく、合戦しても苦しむことがない。だから、「敵情を知って身方の事情も知っておれば、そこで勝利にゆるぎが無く、土地のことを知って自然界のめぐりのことも知っておれば、そこでいつでも勝てる。」といわれるのである。

用間篇

聡明な君主やすぐれた将軍が行動を起こして敵に勝ち、人なみはずれた成功を収めることができるのは、あらかじめ敵情を知ることによってである。必ず人に頼ってこそ敵の情況が知れるのである。

そこで、間諜を働かせるのには五とおりがある。郷間というのは敵の村里の人々を利用して働かせるのである。内間というのは敵の役人を利用して働かせるのである。反間というのは敵の間諜を利用して働かせるのである。死間というのは偽り事を外にあらわして身方の間諜にそれを知らせ、敵方に告げさせるのである。生間というのは、帰って来て報告するのである。

撃ちたいと思う軍隊や攻めたいと思う城や殺したいと思う人物については、必ずその官職を守る将軍や左右の近臣や奏聞者や門を守る者や宮中を守る役人の姓名をまず知って、身方の間諜に追求してそれらの人物のことを調べさせる。

敵の間諜でこちらにやって来てスパイをしている者は、つけこんで利益を与え、うまく誘ってこちらにつかせる。そこで反間として用いることができるのである。間諜の情報は君主が必ずそれをわきまえるが、その情報が知られるもとは必ず反間によってである。そこで反間はぜひとも厚遇すべきである。

聡明な君主やすぐれた将軍であってこそ、はじめてすぐれた知恵者を間諜として、必ず偉大な功業をなしとげることができるのである。この間諜こそ戦争のかなめであり、全軍がそれに頼って行動するものである。

翻訳者
金谷 治
東洋学者。専門は中国哲学、特に中国古代思想史。現行の『論語』および『孫子』・『荀子』・『荘子』・『韓非子』・『大学、中庸』の訳注を刊行。2006年逝去。
出版社:
岩波書店
出版日:
2000/04/14

※Bibroの要約コンテンツは全て出版社の許諾を受けた上で掲載をしております。

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