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投資の鉄則
河野 眞一
長谷川 建一
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経済社会
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インフレと悪い円安で日本は売られる

投資の世界では、「大きな流れ」をしっかりと把握することが重要です。今、世界で何が起きているのか。そして、どういった方向に向かおうとしているのか。

それを見誤ってしまうと、5年後や10年後、あるいはそれ以上の年月が経過したときに、株式相場の本流から外れてしまいます。反対に、大きな流れから支流を読み、その流れに沿った投資を行っていれば資産運用において成功を収めることもできるのです。

世界では今「インフレ」が大々的に起こり、世界中でインフレが加速しています。米国では約40年ぶりの物価高となっていて、FRB(連邦準備制度理事会)がインフレを収めようと必死で利上げを行っている状態です。

このインフレの原因は、以下の2つと言われています。

(1)コロナ禍における各国の積極的な財政出動と金融緩和

(2)ロシアとウクライナの戦争を背景とした資源・エネルギー価格の上昇

(1)は、コロナ禍において大規模な財政出動と金融緩和によって需要が喚起され、リベンジ消費だけでなく、景気が急速に回復。需要が物価の上昇につながる「ディマンドプル型」のインフレが起きています。また、世界中の政府・中央銀行がお金をジャブジャブ供給したことで、お金の価値が低下=物価上昇という構図もあります。

(2)は、ロシアとウクライナの戦争によってロシア産の原油や天然ガスの供給に問題が生じ、エネルギー価格が急上昇しました。また、エネルギー価格だけでなく、たとえば半導体生産に必要なレアガスやレアメタルなどの原材料の一部はロシアやウクライナの依存度が高いものがあり、さまざまな価格が上がっています。

インフレの要因として主に言われているのがこの(1)と(2)ですが、本書ではこのほかにインフレを招いている大きな要因があると考えています。その要因とは「グローカリゼーションの台頭」です。

現在、世界ではこれまで流行語のように使われてきた「グローバル化」(グローバリゼーション)が終焉を迎えつつあります。米国や中国、欧州では、それぞれの経済圏を確立し、その経済圏の中で「ローカリゼーション」(商品やサービスをその地域や国の言語、文化、慣習に合うように最適化すること)を進めようとする動きが出ています。

つまり、自分たちだけのグローバルな経済圏を作り、うまく商品やサービスが売れるような工夫(=ローカリゼーション)をしている最中ということです。

日本もインフレの波が襲い始めています。しかし、こちらは景気回復による需要拡大を背景とした「ディマンドプル型」のインフレではなく、資源・エネルギー価格の上昇や、長期では「サプライチェーンの崩壊」「自然資本の回帰」などを背景とした「コストプッシュ型」のインフレです。

つまり、景気回復を目的としてインフレしているのではなく、ズルズルと仕方なく物価だけが上昇している、というような状況です。

インフレ率が上昇すること自体は悪いことではありませんが、コストプッシュ型の場合、実際には経済成長していない状態のため、真のデフレからの脱却はできず、現状の金融緩和政策を継続せざるをえない状況になっています。

円安はこれからも継続するでしょう。

米国では景気回復に伴うインフレが起きていますが、「期待インフレ率」(将来的なインフレ率の予想)も日本では低い水準のまま。この期待インフレ率の差も、円が売られる(=円安)の要因になっています。しかし、「金利差の拡大」や「期待インフレ率の差の拡大」も、円安の要因の一部に過ぎません。

円安の根っこにある要因は何か。それは、「日本の成長性の欠如」なのです。

円安から資産を守るには

インフレ、円安が継続的なものであるなら、資産を預貯金だけで抱えていたり、日本円だけで資産を持っているだけでは、資産の価値はどんどん目減りしてしまいます。その結果、日々の生活が苦しくなり、老後のために十分な資産を残せない事態に陥りかねません。

そのような事態を避けるため、自分たちの資産をしっかりと守り、増やしていくにはどうすればいいのでしょうか。世界は大きな変革の波にさらされている時期であり、投資の仕方を誤ると、大事な資産が大きく減ってしまうリスクがあります。

「長期」で「国際分散投資」する。

今後も長期的なインフレや円安によって、日本円の価値はますます下がっていくでしょう。何もせずに手をこまねいていると、資産の目減りを防ぐことができません。ですから、国内の株式や債券だけに投資をするのは、リスクが高いと言わざるを得ません。適切なリスク管理のもと、これからは資産の一部を海外の株や債券などに投資していく必要があります。

日本の経済成長は低迷していても、世界経済は成長しています。世界経済の成長の恩恵を受けるには、長期かつ複数の国際的なアセット(資産)や金融商品に分散して投資する必要があります。

「長期」の「国際分散投資」が自分の資産を守り、増やしていくための最も重要なキーワードです。このキーワードを念頭に置いた、適切なポートフォリオの構築を行う必要があります。実際、ブラックロックでも、「長期国際分散投資」をコンセプトに多くの金融商品の開発、運用を行っています。

コロナ禍でも資産を増やす富裕層

わずか半年で約20円と、異例の速さで進展した2022年上半期のドル/円相場。ロシアのウクライナ侵攻による資源価格の高騰と円安のダブルパンチは、日本国民の生活に深刻な影響を及ぼしています。

なぜ、円安がここまで進行したのでしょうか。メディアでも報じられている通り、日米の金利差拡大が大きな理由の一つです。米国は2021年11月にテーパリング(量的緩和の縮小)を開始、2022年3月以降は5度にわたって政策金利を引き上げました。これに伴い、日米金利差に目をつけたドル買いが進行したのです。

米国が利上げを急ぐのは、深刻なインフレに直面しているからにほかなりません。今後の利上げも規定路線です。また、米国だけではなく世界的にその潮流は同じです。

金利上昇がどこで止まるかは誰にもわかりません。おそらく景気にとってアクセルもブレーキも踏んでいない中立金利の状態に戻るまでは、金利の引き上げは継続するはずです。

こうした海外の姿勢に対し、日銀は、2022年7月時点ではインフレは起こっていないというスタンスで、景気回復には道半ばで緩和の縮小は時期尚早とみており、円安の阻止よりも国内景気の下支えを優先していました。

今後考えられる2つのシナリオと資産防衛・運用の考え方は以下の通りです。

(1)景気の回復に伴うインフレの進行と利上げといった適切な経済サイクルで、為替相場は相応なところで円高に戻り、平静に収れんしていく。

(2)インフレが加速し、そのために金利を引き上げる。いったんは円高に転じるかもしれないが、景気自体回復していないので日本経済にとっては最悪のシナリオである悪い円安の流れに移行する可能性がある。

海外からすると、先進国はどこもインフレで、日本でも蕎麦や牛丼が値上がりするなど物価上昇は相応にあるはずなのに、消費者物価指数が2%台だからといって何もしないのはおかしい、何もしないほうが危険という見方があることは事実です。

このような厳しい状況にある中、先行き不透明な時代だからこそ、投資は控えるべき。そう考える日本人は多いかもしれませんが、むしろ世界の富裕層はコロナ禍で資産を増やしているのです。

国が、日本銀行が行動しないのならば個人で行動するしかありません。

他地域に比べると日本の金融資産は少ないですが、富裕層は拡大しています。

2020年はコロナ禍においても株価は上昇し、運用する者・せざる者の格差は拡大しました。資産を継続的に運用することが実のところ、資産を守ることにつながっているのです。

政府は「貯蓄から投資」をスローガンに、アクティブな資産運用を国民に推奨しています。ところが2021年9月の家計調査によると、家計金融資産に占める現預金などの割合は53.6%もあり、1990年度末の48.7%よりも増えているという結果になっています。「貯蓄から投資」という政府の旗振りとは逆のことが起こっているのです。

日本の資産は政府部門が巨額の借金を抱える一方で、家計部門は分厚い資産を持っていて、その規模は米国に次いで世界2位。ただし、株式・投資信託等有価証券投資はわずか15.3%に過ぎません。米国の家計資産は現預金の比率が13・7%で、株式・投資信託は44.8%と、日本とは対照的です。

日本だけでなく海外に目を向ける

日本の富裕層の資産構成は「金融資産」「不動産」「実物」など、一見すると分散しているように映ります。ところが、ほとんどは「日本国内の資産」であり、集中リスクが過大であることに気づいていません。

21世紀に入り、私たちを取り巻く経済・金融・政治・軍事環境は刻一刻と変わり続けています。そのなかで「過度の集中リスクを回避すること」は極めて重要であり、解決手段は「分散投資」にほかならないのです。

分散投資では、「通貨の分散」や「投資対象の分散」を検討し、日本国内だけでも実行できるものもあります。

日本の金融機関を通じた外貨預金は、通貨の変動リスクに対応する一つの手段になるでしょう。ところが、政府が何らかの理由で海外送金を禁止するといった規制を実施すると、外貨であっても他国へ送金して国外で使うことはできなくなってしまいます。

実際、デフォルトを起こしたことのある国の例を見ると、資本流出を防ぐ措置を取る場合には、自国通貨のみならず、外国通貨の送金も含めて一切の国外送金が禁止されています。こうした例から、国外に一定の資産を持っておいたほうがよいというのは正しい考え方なのです。

富裕層が資産を守っている方法

世界の富裕層たちはどういった手段を通じて資産を運用しているのでしょうか?

その最たるものが「プライベートバンク」と「ファミリーオフィス」です。

プライベートバンクとは、一定金額以上の金融資産を有する富裕層顧客向けに、特化したサービスを提供する金融機関のこと。顧客の金融資産を預金として預かることに加えて、資産運用をサポートしたり、資産の保全や次世代への承継に備えた対策や仕組みも構築します。

ファミリーオフィスとは、富裕層一族自らが法務や税務、信託や財団など複数領域の専門家のサポートを得ながら財産を守り増やすとき、その資産を管理し、運用主体となる法人です。

日本では一族が家業を受け継ぎ、ビジネスを拡大してきた会社がたくさんあり、創業100年以上の老舗企業は3万社強あると言われるほど。そんな老舗企業には「番頭」と呼ばれる総務部長のような存在が必ずいて、のれんを守り続けてきました。

経営を守り、次世代を育て、各種課題を解決し、会社が次の世代に受け継がれるために働く番頭は、まさにファミリーオフィスの機能そのもので、日本人にとって馴染み深いかもしれません。

日本だけでなく海外に目を向ければ、債券投資で年利6%のポートフォリオが組めますし、15年で約5倍になる貯蓄型保険や、ただ同然で掛けられる12億円の死亡保障も存在するのです。

著者
河野 眞一
株式会社エリュー代表取締役CEO。イギリスの大学で数学や計量経済学を学び、卒業後、第一證券(現・三菱UFJモルガン・スタンレー証券)に入社。その後、クレディ・リヨネ、JPモルガンなどを経てブラックロック・ジャパンの最高投資責任者(CIO)に就任。2016年エリュー株式会社を設立。
著者
長谷川 建一
Wells Global Asset Management Limited, CEO最高経営責任者。大学卒業後シティバンクにて、資金証券部門、リテール部門、プライベートバンク部門で活躍。 2004年末に東京三菱銀行(現:MUFG 銀行)へ転籍。その後、2015年に独立しNippon Wealth Limitedを創業、資産運用を専業とする銀行のトップとして経営を担った。2021年5月に現会社を設立。
出版社:
扶桑社
出版日:
2022/12/11

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